言葉で映像・イベントの設計図をつくる 台本ライター
台本と言えば、映画・演劇・テレビやラジオのドラマ、番組。近年はゲームなども連想されるでしょう。しかし、そうした従来のエンターテインメント系のフィールド以外でも、台本の必要性は、ビジネスシーン、生活シーンの中で数多く発生します。
ビジネスシーンにおける映像・音声を活用した広報・販促活動。イベント、セレモニー、展示会。多くのプロモーション活動には感情に訴えるコンテンツや、エンターテインメントの要素も求められています。
生活シーンでも同様です。冠婚葬祭をはじめとするライフイベント。また、地域やコミュニティを活性化する企画もあるでしょう。
これらの企画・プロジェクトは最初、何の形もありません。目的に合うコンセプトは何か? そこからどんなストーリーが作れるのか? それはどんな時間・空間で、どんな人や物によって語られるのか? 作り手にとって、漠然としたイメージからその世界を構築していくための「踏み台」にできる本が「台本」です。
台本ライターはそれらのニーズに応え、言葉・文章によって、その作品・行事などの、いわば設計図となる台本をつくります。
台本ライターの特徴 「書き上げたら完成」ではない
台本の大きな特徴は、文字としては表に出ない、人目に触れないということです。書いた文章は、ナレーション、コメント、アナウンス、スピーチといった、人のVoice(声)になり、動画や写真・イラストなどのビジュアル、音楽やSEなどの音声、あるいは人の動きや表情、状況設定や進行プロセスといった具体的な形に反映されます。
また、ほぼすべてのケースが、総指揮官であるプロデューサー、実務の責任者であるディレクター、実際に言葉を発するキャスト、その他、それぞれのポジションの専任スタッフとの共同作業、あるいはその人たちの仕事・役割に配慮した作業です。
こうした特性から環境や状況の変化に応じて稿を重ねることは当たり前で、主催者、出演者、スタッフの都合、あるいはその日の天候などで、途中、あるいは最後に突然、内容が変更になったり、キャンセルされたり、ということも起こります。
したがって、台本ライターの仕事は「書き上げたら完成」ではなく、収録やイベント本番の現場にも出向き、修正・変更・追加などの対応作業を行うこともしばしばあります。
台本ライターのフィールド 新しい需要への対応
台本ライターのフィールドはどんどん広がっています。
映像作品に関しては、インターネットが映画やテレビと肩を並べるメディアとして成長中です。インターネットTVの番組は今後、質量とともに大幅にアップするでしょう。
また、企業や組織が運営するオウンドメディアでも、そのサイトのテーマに基づいたエンターテインメント性の高いコンテンツが増えてきています。こうした場所でも台本が必要になってくるでしょう。
個人が発信力を持ち、個人の文化が尊重されるこれからの時代は、個人が家族や親しい人たちとの絆、豊かさ・幸福、そして成長・成就を実感するためのライフイベントをオーダーメイドで演出します。冠婚葬祭でも従来のしきたりや前例にとらわれない個性的な結婚式やお葬式(お別れの会)などが増え、地域やコミュニティを活性化するプロジェクトも今後、盛んになっていくでしょう。
こうしたシーンでも台本ライターは、需要に応じて積極的に活動します。
台本ライターの応用性 文字表現にも活かせるノウハウ
台本づくりを簡単にいえば、テーマに合わせて複数の材料をグルーピングし、それぞれのグループを効果的に組み合わせてストーリーをつくり、その流れに沿って全体を構成する作業です。その上でメッセージをより伝わりやすくする工夫、そして、印象的づけるためにメリハリをつけたり、ドラマ的な要素を採り入れたり、タッチ・色付け・トーンを決めたり変えたり・・・といった工夫を凝らします。
こうしたノウハウは、本・広報誌・パンフレットといった印刷物やホームページの全体像を設計することや、記事を執筆する際にも大いに活用できます。ですから、台本ライターは、台本だけでなく、本・広告・Webライターとしても活動できるのです。
台本づくりとのカップリングで、映像+Webテキスト、イベント+パンフレットといった形で、効率的で統一感のあるライティングを行うことも可能です。
脚本・シナリオと台本との違い 双方の要素
映画業界・テレビ業界で流通しているニュアンスとしては、脚本(およびシナリオ)は、セリフやト書きを使って、作品の設定・世界観・ストーリーの流れを描き出したものです。
これに対して台本は、俳優やスタッフがそこに書かれているセリフやト書きに沿って動くための道具として使うものと認識されています。
整理して言い換えると、脚本のおもな目的は、その映像や舞台の完成形を紙上で見せることであり、作品づくりのスタート地点にあるもの。
一方、台本のおもな目的は、その映像や舞台を完成というゴール地点に導くためにあるものです。その目的にあわせて、脚本に演出やスタッフの意向も加えて加工したもの、さらに出演者やスタッフも自分で書き込みができるもの――そんな言い方もできるでしょう。
だから、映画やドラマのクレジットには脚本家は「脚本(もしくは作):○○」と記されるし、脚本(シナリオ)は、演劇における「戯曲」と同様、文芸作品として成立します。
一方、現場で出演者やスタッフに配られる、製本された物は「台本」と呼ばれます。
以上、長々と脚本と台本の違いを書きましたが、じつはそれぞれ明確な定義や、呼び名の使い分けの基準があるわけではありません。
台本ライターは、ビジネスシーン、生活シーンも活動フィールドとしている立場から、こうした業界の慣習にはとらわれず、双方の要素――つまり最初に世界観・全体のトーン・ストーリーの流れをつくる「脚本」の作業から、最後に現場で使えるように書き込む「台本」の作業までを一貫した流れの中で行います。
また、自分が手掛けるものをプロジェクト進行の「踏み台」と捉え、その意味を込めて「台本」と呼び、みずから「台本ライター」と名乗っています。
わたしが台本ライターをやる理由
何よりも自分の書いた文章が、肉声となり、動きとなり、ビジュアルになる。立体的な一つの世界になる。その面白さに取りつかれてしまった、というのが大きな理由です。
そして、書くことによって、さまざまな個性と才能を持った人たちとつながることができるのが、この仕事ならではの魅力です。
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