いたちのいのち

 

 

ビスケはあの空から降りてきた天使だった。

イタチの毛皮をかぶっていたけど、わたしにはお見通しだったよ。

だってあの子はあまりに賢かったから。

わたしに“いのち”のこと、たくさん教えてくれたから。

 

プロローグ いたちの天使たちへ

 

 さて、みんなそろったね。

 きょうはボクの話を聞きに集まってくれてありがとう。

 みんなはこれから〈いたちのいのち〉を持って地球に派遣される。

 ボクは七年間・・・あ、これは人間世界の時間ことだけど・・・フェレットとして、あっちの世界を旅してきた。きょうはその体験をいろいろ話そうと思う。きみたちがこれからあっちで生まれて暮らすための参考になればうれしい。

 いたちの仲間、フェレットは人間のペットだ。

 この中にはボクと同じように、ほんとは人間になりたかったのに・・・という天使もいるだろうね。でも、フェレットになると、きっと人間のことがよくわかる。人間は子どもの頃からいつも自分を守ったり、飾ったりするための毛皮をかぶっているけど、ペットの前だとそれを脱いで、ほんとうの声を聞かせてくれる。とくにフェレットが相手だとね。

 ボクがいっしょに暮らしていたのは、〈マヨ〉という人間だった。性別はメス・・・じゃなかった、女。とってもやさしくて、ボクのことを一生けんめいかわいがってくれた。

はい、それではこちらに注目。これが人間の世界の地図。マヨんちは、このタイへイヨーっていう大きな海に浮かぶ、長つぽそい島・ニッポンの中のこのあたり、トーキョーにあった。

そして、こちらが人間世界のカレンダー。ペラペラペラとめくって・・・二〇〇九年の春から二〇一六年の春まで、このマヨんちでボクがどんなふうに暮らしていたか、話していくよ。

 

 

ごはんがないんですけど・・・

 

 ねてるかな? ねているね。でも起きるかな?

「ふわーん、ふわふわ、気持ちいい。むにやむにゃ・・・」

ざんねん。またねてしまった。

起こしてやろうとおもって、ボクはマヨのからだのまわりをニョロニョロしてみたが、逆効果になってしまったようだ。このやわらかい毛皮がいけないのかもしれない。人間はこのフェレットの毛皮が大好きで、いつもナデナデするのだが、今のはこっちのほうがナデナデして気持ちよくしてあげてしまったみたいだ。

マヨはふかい眠りに落ちている。むりもない。この一週間ほど、この家にはほとんどねるためだけに帰ってきている。お仕事とやらが忙しいらしく、ボクたちと遊ぶことも忘れて、毎日バクスイ状態だ。

それにしてもこまった。遊ぶのを忘れられるのはさびしいが、ま、ガマンする。だけど、ごはんのことを忘れられるのはたいへんこまる。お皿の中はカラッポ。となれば、当然、ボクたちのおなかもカラッポだ。

 

フェレットは平和を愛する生き物だが、おなかがへってしまうと、その平和も守れない。げんにメルキャとチョコレはイライラしてケンカを始めてしまった。ぼくがあわてて止めに入り、やっとおさまったところに

「ただいま!」

マヨが帰ってきた。

ボクたちはわくわく胸高まった。やっとごはんにありつける!

ところが・・・

マヨはそのままカバンをほっぽり出して、着ていた服をそのあたりに脱ぎちらかすと、そのままベッドにバタンキュー。ボクらのねぐらの中をのぞこうともしない。十秒もたたないうちにスヤスヤ安らかな寝息を立てて、そのままブクブクと眠りの深海へもぐっていってしまったようだ。

ボクたちはがく然とした。

「あのぅ、ごはんは・・・」

こういうとき、イヌやネコならワンワン、ニャーニャー、大声で鳴きわめくところだが、フェレットはそういうことはしない。というか、できない。小さな小さな「くぅくぅ」という声を出すだけだ。でも、それでは寝ている人間のめざましにはならない。

このままマヨが起きなければ、あと一晩、ボクらはごはんにありつけない。人間時間の一晩は、ボクらにとっての三日分くらいになる。

あと三日も腹ペコのままガマンするだなんて・・・。

どうするんだ、どうするのよ。

メルキャとチョコレがまたさわぎ出す。

ボクはけんめいにそれをなだめ、意を決してマヨを起こしにかかる。

起こすのはかんたんだ。ときどきやっているように、このヤスリのようなザラザラの舌で顔中をゾリゾリゾリと、なめまわしてやれば・・・。そう思って近くに寄って見たら、あまりに気持ちよさそうに眠っているので、ためらってしまった。自分だってこんな気持ちのいい眠りから無理やり起こされたら気分が悪くなるだろう。

けれども自分ひとりならともかく、メルキャとチョコレのこともあるので、なんとか起きてもらわないと困る。それでグルグルニョロニョロのソフトめざまし作戦に出たというわけだ。

 

ところが、この作戦はみごとに失敗。ボクはあきらめてねぐらにもどり、プンプンふくれているメルキャとチョコレを説きふせた。

「マヨは仕事でつかれている。起こすのはかわいそうだ。眠らせてあげよう。ぼくらも眠ろう。だいじょうぶ。朝になったらきっと思い出してくれるから」

ボクは〈いたちの子守唄〉を歌った。またの名を〈いのちの子守唄〉とも言う。人間には聞こえないけど、天使と動物はみんな知っている歌だ。

人間だって遠いむかしはこの歌を知っていたけど、自分を守り、かざるための毛皮をかぶっているうちにすっかり忘れてしまった。人間が動物とくらしたがるのは、この歌を聴きたいから、思い出したいからだという話もある。それがほんとうかどうかはわからないけど、とにかくその歌でメルキャとチョコレをねかしつけ、ボクもすきっぱらをかかえて眠った。

 

翌朝。

ガサガサゴソゴソという音と、からだじゅうにしみわたるような、おいしそうなにおいで目がさめた。マヨがごはんのしたくをしてくれていた。

起きぬけのボクと目が合うと、マヨが言った。

「ごめんごめん、おなかすいていたんだよね」

ホッとひと安心。すると同時に、おなかがグーと鳴った。

 

マヨとぼくときょうだいたち

 

ボクの名前はビスケ。ボクたちの仲間は人間から親しみをこめて「イタチ」と呼ばれているが、ほんとうはイタチ科のフェレットという動物、ということになっている。

知らない人のために説明すると、イヌのダックスフントのようにニョロっと胴体が長く、足が短い。体重は一キロあるかないか。子ネコの胴体を引っぱり伸ばした感じ、と言えば、だいたいの大きさがわかるだろうか。

毛皮の色は人それぞれ、いや、いたちそれぞれで、とてもカラフルだ。

ボクの場合はふんわりミルクビスケットの色。

いっしょに住んでいる弟分のメルキャは茶色っぽいキャラメル色。

妹分のチョコレは、カカオたっぷりブラックとホワイトチョコレートの混じった毛皮。ボクたちはほんとうのきょうだいじゃないけど、飼い主のマヨのもとで小さな子供の頃からずっといっしょに暮らしている。

ひとりぐらしのマヨは、ボクたちといっしょに暮らしたいと、この町でワンルームマン

ションを見つけた。小さな部屋だけど、「ひとりと三びき」が安心して生活するには十分な広さだ。

ぼくたち三びきは、ねぐら兼ごはん食堂であるケージを基地にして、毎日もりもり食べ

て、とっとこ遊んで、ぷりぷりウンコしてオシッコして、部屋中をチョロチョロニョロニョロ探検して回って、ぐーすか眠って、ひょこっと起きて、また食べて遊んで・・・そんなことを飽きずにくりかえしながら暮らしている。

マヨに言わせると、フェレットというのは、「好奇心が毛皮をまとって走っている生きも

の」なのだそうだ。たしかにボクらは遊ぶのが大好きで、起きている時間はごはんとトイレ以外、しじゅうどこかにもぐり込んだり、跳びはねたり、あちこち探検したり、やったことがないことにチャレンジしたりしている。でも、おとなになってしまった人間は、あまりそういうことはやらないようだ。

とにかく興味をひかれたことは何でもやってみなくちゃ気がすまない。キッチンとかい

う、人間用のごはんを作る場所や、トイレ・おフロといった場所は「はいるな、キケン」ということで入れてもらえないのだが、それ以外はどこでも自由に走り回り、のびのび楽しく暮らしている。マヨんちは、ほんとうに住みごこち満点なのだ。

 

ボクはどこから来たのか(人間になるはずだったけど)

 

フェレットは眠っているとき、夢を見る。気づいていない人が多いと思うけど、マヨは

知っていた。でも、その内容まではわからない。だから、これは初公開。ボクが見る夢のほとんどは、自分がこの人間の世界に生まれる前の話だ。

 

空の向こうの天使の国――

と言うと、人間は美しいお花畑がどこまでも続くような、理想の世界を思い浮かべるけど、残念ながらそこまですてきなところじゃない。ただ、ほどほどに楽しく、なやみもなく、たくさんいる天使が自由気ままに、安心して暮らしていられるところではある。でも退屈でしかたがないんだ。

退屈に耐えられなくなった天使は“いのち”を欲しがる。

造物主(ふつう、人間は神さまと呼んでいる)が経営する〈地球いきもの派遣センター〉では、それに応じていつでも希望者を募集している。それに応募して採用されれば、ある一定期間、太陽系第三惑星で生きものとしての命が与えられ、地上に派遣されることになるのだ。

人間時間で言えば、西暦二〇〇九年の春。

「人間として地球に行きたい者は?」というセンターの呼びかけを受けたボクは、手を挙げて手続きをおこなった。履歴に大きな問題がなければ、希望者は全員採用されるしくみなので、すっかりそのつもりでいたのだが、どういうわけか、センターの手ちがいで、その手続きがちゃんと処理されておらず、ボクは派遣メンバーに登録されていなかったのだ。

ボクはかなりがっかりした。

「せっかくその気になっていたのに・・・」

憤懣やるかたないところへセンターの〈いきものがかり〉が、ぺこぺこしながらやってきた。

「このたびはこちらの不手際でたいへん申しわけありません。次回の募集時には最優先で登録させていただきますので」

「で、その次回募集っていつ?」

〈いきものがかり〉はぶあついスケジュール帳を取り出し、一生懸命ページをめくりながら、おそるおそる口にする。

「えーと、うーん・・・百年ほど先に若干あきが出そうなので、このへんでなんとか・・・」

それを聞いて、ボクは一つ大きなため息をついた。すると、あわてて、

「あの・・・今回、替わりに、と言っては何ですが、人間と代謝機能がほぼ同じ、フェレットという生きものの“あき”があるんですが・・・」

「代謝機能がほぼ同じ?・・・ということは人間と似ているってことなのかな?」

「はい、わりと。それに人間と関わりが深く、大きな役割を持っている生きものです」

「へえ」

フェレットという生きもののことを知らなかったので、ボクは興味をおぼえた。

「〈いたちのいのち〉という貴重な命で・・・ただ、その地球での任期が人間の十分の一くらいしかないのですが」

ボクはほんのちょっとだけ考えた。

次回の募集で確実に人間の命をもらえるというのなら、今回はその〈いたちのいのち〉として生きてみるのもいいかも知れない。

「そうか、それでいい。それでいこう!」

 

けれどもボクは地球に降りてきたあと、派遣センターの“いきものがかり”が、いかにいい加減な、マニュアル頼りの仕事をしているのかを思い知った。

フェレットのどこが人間に似ていると言うのか?

代謝機能以外は、似ても似つかぬ生きものじゃないか!

と、まぁ、ちょっとは腹を立ててみたものの、なってしまったものはしかたがない。寿命のある間はもどれないのだ。それならせっかくだから、いたちのいのちをとことん楽しんでやろう。

そんなわけで、ボクの地球上での生活が始まったのである。

 

マヨ、そして、きょうだいたちとの出会い

 

生まれたのはアメリカのファーム。二ヵ月後に日本にわたり、トーキョーのペットショップへ。ケージの中で他の子どもたちともみくちゃになって遊んでいたところにマヨがやってきて、ボクを気に入って飼うことにした、というわけ。

と、ここまでではマヨが話してくれたことで、ボク自身にはさっぱり記憶がない。じつはボクはこの頃まで、まだ自分を人間だと思い込んでおり、マヨと二人きりの生活を楽しんでいたのだ。あいつが目の前にあらわれるまでは・・・。

 

「ほらビスケ、お友だちだよ。メルキャだよ」

マヨはそう言って、そのとき、ボクよりさらにチビだった「メルキャ」という名のフェレットをねぐら(ケージ)の中に入れた。

くんくんくん・・・。

すごくけものくさいにおいが鼻を直撃した。そのとたん、からだじゅうの血がグーンと逆流し、しっぽが試験管ブラシのようにシュパッ!と逆立った。その弟分を見た瞬間、自分がほんとうは人間でなく、どんな動物かということがわかったのだ。

マヨもびっくりして、すぐにメルキャを引っこめ、なにかモゴモゴ言って説得しようとしている。

いけない、いけない。ボクともあろう者が、こんなことで取り乱しては・・・と、冷静になり、では新入りと遊んでやろうと「ククク」と声を出しながらダンスをしてみた。

ところが、このメルキャというやつはまったく無視して「フェ~フェ~」とトボけた声を出しながら、ねぐらの中をウロつき回るばかり。そのようすに、ボクはなんだかイライラしてきて、

「くそっ、気にいらねぇ。シューッ!」

またもや血が逆流し、はしたなくも感情むき出しで怒鳴ってしまった。

まったくメルキャとの出会いは最悪だった。しかもこいつは、ひどいやんちゃぼうずで、ボクのそれまでのマヨとの平和なくらしはすっかりぶち壊しにされてしまった。

トイレはちっとも覚えなくて、あちこちでもらしてしまう。

ボクがごはんのペレットをひとつぶずつ味わいながらほおばっていると、そのすぐ横でガガガガッと、すごい勢いでがっつく。さらにそのせいで皿からごはんがポロポロと散らかる。

こっちがボトルから水をクイクイ飲んでいると、ドドドドッと走ってきて体当たりをくわせ、飲み口をぶんどって、これまたガガガガッと飲みまくる。

飼い主の中にはこういうやつのほうを「やんちゃでかわいい!」と思ってしまう人もいる。新しくやってきたおチビくんならなおさらだろう。けれどもマヨはボクに「お兄ちゃんなんだからガマンしなさい」とは言わなかった。

彼女はフェレットによくある〈お迎え症候群〉というのを知っていた。これは飼い主が新入りに気を取られ、かまい過ぎるあまり、先に飼っていた方がいじけてストレスをため込み、あげくのはてに体調をくずしてしまうというものだ。

「ビスケが先に飲んでいたんでしょ。どきなさい!」と、」メルキャの首根っこをつかんでボトルから引き離し、今度はボクに向かって言った。

「ビスケもおとなしくしていないで。自己主張していいんだよ」

フェレットはイヌほど上下関係にこだわらないが、それでも複数いると、ある程度の序列ができる。マヨはそれを意識して、自分が飼い主、つまり大ボスとして、しっかりけじめをつけなくちゃいけない、と考えているようだ。

「メルキャ、わかってる? ビスケは上! あんたはこの家でいちばん下っぱ!」

マヨがことあるごとにそうしつけてくれたおかげで、やんちゃなメルキャもボクを兄として慕うようになり、ボクも「ビスケがいちばん」と言われ、ならばそれにふさわしく、長男としてリーダーシップをとらなくては・・・と心がけるようになった。

それは妹分のチョコレが来たときに発揮できた。

チョコレもメルキャに負けず劣らずのおてんばだったが、この家での暮らしかたをきちんと教えると、ボクを頼りにしてくれるようになった。

「ビスケにまかせておけば安心」

そんな飼い主の信頼を得て、ボクはマヨんちできょうだいたちと、のびのび安心したくらしを送ることになったのである。

 

“らしさ”を身に着ける努力

 

ところでボクは、メルキャやチョコレといった、横着な、いかにもイタチっ子らしいきょうだいといっしょに暮すようになってから、「自分はフェレットなんだ」と意識するように努めていた。なぜなら、いつも人間とフェレットのことについて考えていたりすると、自分がどっちだか忘れてしまいそうになるからだ。

そういう時にかぎって「はっ」と気がつくと、マヨがじっと観察していたりする。そして、ボソッと言う。

「あんた、イタチのフリしているだけなんじゃない?」

ドキッとして、思わず冷や汗タラッ。

 

そんなことないよ。

ほらほら、ガジガジかじるの大好き。

音のピーピー出るオモチャも大好き。

こらこらチョコレ、これは兄ちゃんのオモチャだ。兄ちゃんが遊んでいる時は勝手に持って行くんじゃない。

トンネルくぐるのも、ハンモックにもぐり込むのも、取っ組み合いするのも、だーい好き! おーいメルキャ、遊ぼうぜ!

家の中も探検、探検。

人間の小さい子どもとおんなじで、口に入る物が落ちていたら、とりあえず何でも食べちゃうよ。ヘンなもの食べないようにちゃんとお掃除しておいてね。

キッチンはボクたちにとってワンダーランド。ごみ箱をあさったり、食べ物のかけらや調味料や洗剤など、珍しい、楽しいものがいっぱいだよ。シンクやガス台だってよじ登って遊んじゃうよ。

お風呂場やトイレも入りこむとたいへんだよ。排水管なんかに頭をつっこんで抜けなくなっちゃった、洗たく物のカゴにもぐり込んでいて、ぐるぐる回っている洗たく機の中に放り込まれちゃった、なんて子もいるらしいよ。

ほーらほらほら、ホップ・ステップ・ジャンプの三段跳び!

マヨママのからだにだってよじ登っちゃえ!

 

ふぅ~~。フェレットらしくするというのもちょっと疲れる。

こういう努力をするとマヨは喜んでくれて、普通のフェレット扱いをしてくれるんだけど、やっぱり疑いは完全にはぬぐえないようだ。

そこでボクは夜な夜な本など読んで、「フェレットの習性・特徴」を研究している。フェレットとして生まれた以上、フェレットについてちゃんと勉強しなくちゃ。でも、こういうこと自体がすでにフェレットらしくないのか・・・。ま、いいや、しかたがない。これがボクなんだから。

 

2.フェレットについての研究

野生時代の記憶

 

「ギャーッ!」

メルキャの悲鳴がひびきわたったのは、マヨの留守中のことだった。

なにかと言うと、すぐに大声を上げてわめき散らすメルキャだが、それはいまだかつて聞いたことのない、恐怖にかられた叫びだった。、

何ごとかと見ると、床にぺしゃっとなって広がったマヨのTシャツの下でメルキャがバタバタもがいている。

必死の形相で這い出してきたメルキャは、ボクと目を合わせるなり、飛びついてきた。どうしたのか話を聞こうとしたが、ブルブルガタガタからだがふるえて止まらず、とても話せそうな様子ではない。

ボクは上の方を見上げて察知した。ハンガーに吊るしっぱなしにしておいたTシャツが、何かの拍子にツルッとはずれ、ちょうどその下を通ったメルキャの上にバサッ!と落っこちてきたのだ。

どうしてこれが恐怖なのか? それはフェレットの遺伝子に“天敵の記憶”が刻み込まれているからだ。

 

フェレットの祖先は、野生のヨーロッパケナガイたち。そのもっとも恐るべき天敵は、ワシ、タカ、フクロウなどの猛禽類――ほかの鳥や地上にいる獣を襲ってごはんにしてしまう肉食系の鳥たちだ。特にからだが小さく、サバイバルの術をまだ知らない子どもは、おあつらえむきのごはんになったらしく、生まれた子イタチのおよそ半数は、猛禽たちの胃袋に収まったという。

その天敵に対する恐怖の記憶は強烈だ。フェレットとしてペット化されても、全員の脳の奥深くにしっかりこびりついていて離れない。だから布でも紙でも、何かが上からバサッと覆いかぶさってくるのは、翼を広げて舞い降りてくる猛禽のイメージに重なっている。だから条件反射でパニック状態におちいってしまうのだ。

 

街の中にも猛禽はいる。カラスやトンビだ。じっさいにおもてで散歩させていたら、トンビがさーっと急降下してきて、飼い主の目の前でさらわれていってしまった、という例もあるらしい。ブルブルブル・・・想像するだけで身の毛がよだつほどおそろしい。

マヨはそうした猛禽類だけでなく、イヌやネコも危険と考えている。一般的にフェレットはイヌともネコとも仲よくなれる動物とされているが、それは油断ならないというのが彼女の意見だ。

たしかにイヌは、ルーツをたどるとみんなオオカミ。そこまでさかのぼらなくても、何代か前までは人間の狩りのおともをする猟犬だった種類がいっぱいいる。なにかの拍子に狩猟本能のスイッチが入ってしまったら、小さなフェレットなど、いともかんたんに殺されてしまう。からだの大きなノラネコなどにも負ける確率が高いし、最近は小動物をいじめて遊んで殺しちゃうのが大好きという人間もあちこちにいる。

それと逆に、小鳥やネズミなどとばったり会ったら、飼い主がちょっと目を離した瞬間、すぐに野生イタチに変身して、狩りを始めてしまうかも知れない。

そして万が一、刺激的な環境に舞いあがったあげく、逃げ出してしまったら、もう致命的だ。イヌやネコと違って帰巣本能ゼロなので、二度と飼い主のもとには帰ってこられない。また、暑さに弱く、あっという間に熱中症になってしまうので、夏場は一日として生き延びられないだろう。

そんなこんなの理由から、親ばかで心配性のマヨは、ボクたちを散歩に連れて行きたがらない。病院などへ行くためにやむなく外出させる時は、かならずキャリーケースに入れて運んでいる。

「イタチさんは箱入り娘、引きこもり息子でいいの」

それがマヨの飼い主としての信条なのである。

 

フェレットの歴史と仲間たち

 

マヨみたいな信条の飼い主がどれくらいいるかは知らない。けど、一度、ボクがせがんで近くの公園に連れて行ってもらった時は、珍しいもの見たさで、人がいっぱい集まってきて「これ、なんて動物?」とマヨに聞いていた。

イヌ。ネコ。ウサギ。それにハムスターなどのネズミカンパニー。

哺乳類のペットとしてメジャーなのはそんなところで、フェレットはまだよく知られていない。しかし、イヌほど手間がかからず、ネコよりも愛きょうがあって、ウサギほど引っ込み思案でなく、ハムスターなどよりも“なでかわいがれる”満足感があるフェレットは、少しずつだが確実にファンを増やしているらしい。そして一度でもつき合ったことのある人は、すっかりその魅力のとりこになる。

 

フェレットはもともと実験動物だった。

 “代謝機能が人間とほぼ同じ”という事実は、人間が飲むインフルエンザなどの薬が効くかどうかを調べるのにうってつけだった。二十世紀以降の先進国の医療は、こうしたフェレットたちの犠牲があったからこそ進歩した――ということも言えるわけだ。

それよりむかしは、ヨーロッパでミンクやテンのように毛皮用に飼育されていた時代があったり、さらにそのむかしは、狩りのために飼われていた歴史がある。穴の中に隠れているウサギやネズミを捕まえるのが得意だったからだ。狭いところにもぐりこむ仕事に合わせて、からだが胴長短足になっていったのは、イヌのダックスフントとおんなじ。ダックスフントももともとはアナグマ狩りの猟犬だからね。

 

さっきもちょっと話したとおり、祖先は食肉目イタチ科のヨーロッパケナガイタチと言われている。ちがうという説もあるけど、いずれにしてもイタチの仲間であることには変わりがない。

古代エジプト、ギリシャ、ローマと、歴代の人間世界の、いちばん発達した国で飼われていたという栄光の歴史(?)をせおい、エリザベス一世の肖像画に描かれたり、ヴィクトリア陛下に飼われていたり、イギリスの女王さまとも相性がいい。だからイギリスのファンタジー物語にもしばしば登場する。

 

そんなフェレットの仲間と言えば、アナグマ、オコジョ、カワウソ、ラッコなど。野生動物としては、見た目やしぐさがかわいらしくてユーモラスなのが多いが、いずれも人間になつくことはめったにない。

この仲間で日本にいるのは、イタチとテンだ。フェレットも人間の三歳児なみの知能があると言われているが、とにかくイタチはかしこい。

しかし人間は、すなおに自分たちの命令にしたがってくれるイヌのようなかしこさは好むけど、そうではない、自分たちの利益には貢献してくれず、ぎゃくに損害を与えるようなかしこさは大きらいだ。

だからイタチもきらわれた。ずるがいこいだの、最後っぺだのと悪口をたたかれ、「かまいたち」なんて妖怪にもされたりした。小さな穴でもスルスル出入りできるので、ニワトリ小屋にしのび込んで、ごはんにありついたりしたもんだから、農家の人たちには相当憎まれていたようだ。

そんなわけで人間の世界――とくに日本におけるイタチ、および、その仲間たちの“愛され度”はそんなに高いとは言えない。もしかしたらフェレットがその地位を上げるように、もっとがんばらなくてはいけないのかも知れない。・・・と言っても、天真らんまんに遊ぶだけで、これほど「がんばる」という行為から遠くにいる動物もいないのだけど。

 

フェレットの飼い主たち

 

フェレットは新しいペットなので、飼っている人はイヌやネコとは比べものにならないくらい少ない。だからフェレットをめぐる世間はおのずとせまくなり、飼い主同士の情報交換が親密になり、行きつけのペットショップ、かかりつけの獣医ごとに、一種のコミュニティができている。

動物病院はたくさんあるが、ほとんどはイヌ・ネコを診るところ。フェレットの診療がちゃんとできるドクターは東京の近くに集中しているので、わざわざ遠くからやってくる飼い主も少なくない。長野から車を飛ばしてきたり、沖縄から飛行機でやってくる人もいるくらいだ。

そうした人たちは、まる一日がかり、あるいは泊りがけというケースもあるので、ペットショップがフェレットの休憩するところや泊るところを提供することもある。旅行とか仕事の出張のときにあずけにくる飼い主もいるみたいだ。

ボクが赤ん坊の頃にいたフェレット専門のペットショップではそういう託児サービスをやっていて、飼い主のいるフェレットがケージの中でワイワイ遊んでいたり、スヤスヤ眠っていたりする。

売っているベビーのフェレットは店員さんがきちんと面倒を見ているし、とてもかわいいのだが、すでに人間と暮らしているフェレットは、やはり何かちがう魅力を出しているらしく、やってきたお客さんの目を引きつける。中には「いちばんかわいいので、この子がほしい!」と言う人もいるようだ。

お店の中はフェレット特有の“イタチくささ”でムンムンしているのだが、飼われているフェレットには人間のにおいがちょうどうまい具合にブレンドされて、親しみやすいハーモニーをかもし出している。

 

3.捨て子ものがたり

 

いたち版白雪姫

 

雪のような真っ白な毛皮に黒い目。〈ホワイトファー・ブラックアイ〉と呼ばれる毛皮のフェレットは、とても数が少なく、人間が勝手に決めた基準で言うと、最高の種族とされている。いわば王族とか貴族の類だ(人間はこうやって他の動物たちに、自分たちの社会や生活の基準を当てはめて話すのが大好きだからね)。

人間時間の西暦二〇一一年の夏。そんな白いフェレットが二ひき、マヨんちにやってきた。男子のほうは警戒心が強く、神経をピリピリさせていたが、女子はツンケンしたところもなく、つぶらな黒い瞳でボクたちを見回し、にこやかにあいさつした。

「はじめまして。どうぞよろしくネ」

人間の童話に出てくる〈白雪姫〉というのは、こういうコのことかと思った。

「ようこそ。こちらこそよろしく」

ボクは失礼のないように、あいさつを返したが、その横でメルキャが一発でメロメロになっているのがわかった。あまりの美人なので、チョコレはちょこっと気おくれしている。それがミクルとクリムとの初めての出会いだった。

この二匹は、ボクたちと同じようにペットショップから連れてこられたわけではない。彼女らは捨て子だったのだ。

 

捨てられたお姫さま

 

サイタマ県のとあるゴミ捨て場でミクルとクリムが発見されたのは、とても七月とは思えないほど涼しい、雨降りの日だった。

マヨの話によると、そこに捨てられてから派遣されるまで、二、三日は経っていたようだ。幸い、涼しい日が続いていたおかげで二ひきは命拾いした。前にも言ったように、フェレットは暑さが大の苦手で、ふつうなら七月に外で長時間放りだされていれば、熱中症であっという間に死んでしまう。

発見したのは、そのゴミ捨て場の近所に住んでいる、もとウサギ飼いの女の人だ。ウサギを飼っていただけあって、小動物に対して鼻が効くのだろう。たまたま通りかかって目にした、薄汚れた段ボール箱がみょうに気になり、「なんだろう」と思って近寄って見ると、その箱の表に

「だれか拾ってください」

黒いマジックで、ていねいにそう書かれていた。

〈もとウサギ飼い〉があわてて箱をあけると、数日間閉じこめられていたため、自分たちのウンチがくっついてひどく汚れてしまった二匹のフェレットが出てきた。びっくりして家に連れて帰ってシャンプーしたところ、かがやく雪のように白いのが現れたので二度びっくり。

ほんとうに運のいいことに、、ウサギ飼いはその時、ウサギを飼っていなかったのでケージがあいていた。そこで彼女は二ひきをその仮の宿に入れて、不特定多数のイタチ飼いに向けて、インターネットの掲示板に書き込みをした。

「白いフェレット 里親大募集 至急!」

それを見たマヨは「うちではもう三びきいるので飼えないけど、里親が見つかるまでの間だけでよければ預かりますよ」と、引き取ってきたというわけだ。

捨てられたり、また、逃げ出したり、散歩の途中で迷子になってしまうフェレットは少なくない。そうしたフェレットが外で生きのびられる可能性はひどく少ないし、たとえ生き延びても去勢・避妊手術を受けているので(そうなのだ。アメリカのファームで生まれたフェレットは全員、手術を受けて子どもを産まない・産ませないようにされているのだ!)、子孫を残すことはできない。だから増え過ぎて生態系を狂わせるなんてことはないのだが、それでもやっぱりノライタチがいるのはゆゆしき問題、ということになってしまうのだ。

 

メルキャの恋と災難

 

さて、そんなことでマヨんちにやってきた二ひきが、どんな事情で捨てられたのかはわからない。けれでも飼い主はちゃんとかわいがって育てていたことは間違いないと思う。というのは、食事とトイレのしつけがきちんとされていたからだ。

食事はメルキャなどよりも、よっぽどお行儀よく食べるし、用の足し方だって何やら気品のようなものさえ感じられる。飼い主が捨てたのは、やむにやまれぬ事情があったからなのだろう。かと言ってもちろん、捨てたという事実は変わらないし、その罪は消えるわけではないのだけど・・・。

いずれにしても二ひきはとても上品な生まれ育ち方をしたフェレットだった。ただし、ボクたちに対する態度は対照的だった。女子の方はすぐにぼくたちとなかよくなったのだが、男子の方はこころに固くふたをして、けっして開こうとしなかったのだ。飼い主に裏切られ、今また、これまでずっといっしょに暮していたきょうだいに裏切られたという二重のショックがあったからだろう。

そしてまた、メルキャが女子にラブラブ状態になってしまって、一生懸命おしりを追いかけるようすもしゃくにさわったのに違いない。孤立して、ひどく攻撃的になってしまったのだ。

「なかよくしようという気がないみたいだから気をつけろよ」

ボクはメルキャとチョコレに注意するように言った。ところがメルキャは空気が読めないというか、相手の心の状態を考えようとしない。女子のおしりを追っかけ回すのに疲れ、今度は男子の方に「おいおい、遊ぼうぜ」とトコトコ近寄って行ったら、鼻先をガブッ!と噛まれてしまった。

「キャン!」

ほら、言わんこっちゃない。

よっぽど痛かったようで、それ以来しばらくの間、メルキャは夢の中でこの噛まれた体験を反すうしていたらしく、眠っている間によく「キャン!」と叫んでとび起きていた。

 

ミクル、きょうだいになる

 

マヨはボクたち三びきの面倒を見るのに精いっぱいだったので、最初は「里親が見つかるまで」という期限付きで二ひきを受け入れた。ところが、ボクたちのようすを見て、こころが動いたようだ。

彼女は白雪姫にご執心のメルキャにこんな質問をした。

「メルキャ、大事な話だから、ちゃんとママの目を見て答えてね。メルキャはあの白い彼女がずっとお家にいたらうれしい? これからずっと、いつもいつも、いっしょにごはんを食べたり、遊んだり、おねんねしたりできたら、うれしいかなぁ?」

するとメルキャは能天気に答えた。

「どうしてそんなこと聞くの? そんなの、もう決まっていることでしょ?」

そうなのだ。白雪姫といっしょに暮らすことは彼女が到着したときから、ボクたちの間ではすでに決定していたことだったのだ。

 

彼女を引き取る決心をしたマヨは、名前を「ミクル」にした。男子の方は「クリム」と名付けた。もちろん、どちらも純白の毛皮からイメージした名前だ。でも、クリムには名前だけ付けたものの、結局、それ以上、いっしょに暮すことはなかった。里親が決まって引き取られることになったからだ。ボクは彼にはここで気の毒な思いをさせてしまったかも・・・・と、ちょっと後悔している。

「達者でな」

彼が旅立つ日、そう声をかけると、彼は少しだけにこっと笑った。自分の落ち着き先が決まってやっと安心できたのかもしれない。きっと正式な新しい飼い主のもとで元気に暮らしていくのだろう。そう願わずにはいられない。マヨもホッとした様子だった。

「三人なんてムリムリ」

そう言っていたのに、チョコレを連れてきてしまったマヨ。

そして今また、ミクルを迎え入れ、うちはイタチ四ひき+人間一人の大家族(というほどでもないけど・・・)になった。にぎやかで楽しいけど、ボクたちを養うために、マヨはますます忙しく働くはめになってしまった。

 

×  ×  ×

 

さて、これからフェレットとして人間の世界を旅する天使の諸君、今から言うことは、とてもだいじなことだから、耳の中をきれいにそうじして、よく聞いてほしい。

キミたちにはミッションがある。ボクにもあった。っていうか、旅を終えてこっちにもどってきた今でも、まだそれは続いている。

キミたちの飼い主になるであろう人間はのんきそうに見えても、いろいろ悩みを抱えていることが多い。しばらくいっしょに暮らせば、すぐそれに気づくだろう。

 

「いのちはどこから来るのか?」

「愛とは何か?」

「自分はどうしてこの世界にいるのか?」

 

そんなこと聞かれたって、返答は不可能。・・・なのかもしれないが、さりげなくそれらと付き合うことが、すなわちミッションなのだ。

・・・あ、いやいや、そんなに難しい顔をしなくていいよ。うん、そうだな・・・たとえば、ボクの場合はこんな感じだった、ということを話そう。

 

 

4.ひとのこころ、いたちごころ

 

お金と健康の話

 

人間の世界はお金を中心に回っている。お金がないと住むところも、着るものも、食べるものも手に入らない。だからお金のことしか考えられなくなる人間があとを絶たない。

もちろん、ペットを飼うのにだってお金がいる。それが現実だからしかたがないのだ。ボクたちと暮すことは、マヨにとって、けっして少なくないお金の負担をかけることになっていた。

ミクルも加わって四ひき。毎日のごはんやおもちゃなどを買うお金もそうだし、あつい夏はいつもエアコンの冷気が必要になる。また、病気になってしまった時の病院代も大きな出費になる。

けれどもマヨはボクたちに向かってこう言う。

「そりゃずっと健康でいてくれたら言うことなしだけど、いいのよ、病気しても。あんたたちが生きてくれているだけで十分ありがたいんだからさ」

なんでも彼女はちょっと以前にギンザという街で、一回あたり何万円というマッサージをしてもらうため、月に何度もそのマッサージ屋さんに通っていたことがあるという。仕事がハードだったせいもあって、イヤシだの、ヒロウカイフクだのに、それだけたくさんのお金を使っていたらしいのだ。

けれどもボクたちと暮らし始めてから、そういうところに通うのはピタリとやめた。

「あんたたちのほうがコストパフォーマンスがいいのよ」

そう言ってマヨは笑う。

つまり、ボクたちが彼女の健康に貢献しているらしいのだ。ニョロニョロフワフワするのが、マッサージの代わりになるのだろうか? よくわからないが、ボクたちといっしょに遊んでいるときのマヨは、とても元気で健康そのものだ。

 

マヨのこころ

 

フェレットの専門医である獣医は「フェレットの飼い主は明るく能天気で楽しい人が多い」と言っている。それはフェレット自体がそういうタイプの動物だから、ということもあるのだろう。

ところが、マヨはそれとは反対に、うつっぽくなりやすい人、凹みやすい人、ついついネガティブに物事を考えてしまう人といちばん相性がいい、と思っている。

生きていることそのものが楽しくてしかたがない――そんなフェレットの性格が人間を救ってくれるのだ、と。

頭がよく、仕事もできる。社交性豊かで、話していて楽しくてユーモアもある。

一見そう見えるマヨ自身が、じつはわりと凹みやすく、人間ぎらいになる傾向を持っている。

自己評価が低い。自信が持てない。家族との関係がよくない。学校でいじめられた。エトセトラ。エトセトラ。

「何かの役に立つのなら生きていてもいい」

そういう価値観が彼女のこころに深く植えつけられていた。

ひとりぼっちの子どもが、「役に立たなくちゃいけない」と、一生懸命がんばってきたのだ。そうじゃないと「生きていちゃいけない。だから」と、数十年間生きてきた。

そんなマヨがひょんなきっかけでボクと出会い、フェレットという、イヌともネコともちがう、なんとも遊び好きな動物のことを知った。

雨のち晴れ。

人生はいいこともあれば悪いこともある。凹むこともあれば凸ることもある。全体を平らにならして見れば、けっこう公平にできているのではないだろうか。そう考えていくと、フェレットとの出会いは、彼女にとって必然的な運命だったのかもしれない。

そこでボクは、あの派遣センターの〈いきものがかり〉が言ったことを思い出した。

「フェレットは人間とかかわりが深く、たいせつな役割をヨイショと背負っている生きものです」

彼女のこころのドラマに寄り添うにすると、あのセリフの意味が、つまり、自分がフェレットとして、この地球で旅している意味がわかってきた。

 

こころの栄養とボクが生きている意味

 

真夜中のオフィス街。コンクリートでできた大きなビルが立ち並ぶ地面の下の駅に今日の最後の電車が入ってくる。

やっとの思いで仕事を終わらせたマヨは、何とかその電車の到着する時間に間に合わせようと必死で走ってきた。そして、カンカンカンカンと靴音高く、ホームへ続く階段を駆け下りてくると、突然、狂った獣のような叫び声が駅の中にこだました。

びっくりして足を止め、今度はゆっくりと下りていくいと、しわだらけでくしゃくしゃになったスーツを着た中年の男が何か叫びながら太い柱に思いきりケリを入れているのが見えた。何に対してかはわからないけど、とにかく怒り狂っている。

マヨはいったん足を止めたものの、そのまま何も言わずにまた階段を駆け下り、その男がいるところと逆の方向にホームを歩いて行った。というのも、こうした光景はけっして珍しいものではなく、よく見かける、いわばフツーのことなんだそうだ。

その時、ちょうどタイミングよく終電車がすべり込んできた。

「ラッキー」と思って電車がちゃんと止まるまで待っている間、ふと見ると、男は柱をけるのをやめて、今度はスピードをゆるめながら入ってきた電車に向かってキックをし始めた。

さすがにこれはフツーに見かけることとは言えない。電車とけんかして勝てるはずがない。ヘタをすると大ケガ、最悪の場合は転落してひかれて死んでしまう。

けれどもかまっているヒマはない。マヨはそのまま開いたドアから電車に乗り込むと、あいていたシートにドサッと座り込んで、そのまま身をゆだねた。あの男のことが頭をかすめ、小さな罪悪感におそわれた。どうして無視してしまったのだろう。ひとことでも声をかければ、あの人だって少しはまともな状態にもどったかもしれない・・・。

そんな思いも最終電車が駅のホームから離れ、ふたたび闇の中に吸い込まれる頃には煙のように消えていき、もちろん、そのあとも男のことなど、思い出しもしなかった――。

これはマヨがボクと出会うはるか前、まだ彼女がある大きな会社のオフィスに務め、残業続きの生活を送りながら、ときどきギンザに出かけて一回数万円のマッサージを受けていたころの話である。

トーキョーの、しごとの中心地とされるその街の、昼間の地上の世界と、夜の地下の世界とでは、同じ街でもずいぶん見せる顔がちがうようだ。少なくとも、真夜中の地下の世界では、わけのわからない叫び声を上げたり、柱や電車をけりつけるような人たちも、べつに珍しいわけではない。それどころか、ほかの人をけったりなぐったりしないだけ、かなりマシといえるのかもしれない。

人も動物も、ごはんとねどこさえあれば生きられるというものではない。こころの栄養が必要だ。特に人間はこの栄養を大量に取り入れる必要があるらしい。栄養バランスが崩れたり、欠乏したりすると、いともかんたんに精神がおかしくなったり、アルコール中毒になったりしてしまう。

だから人間はこころの家族として、魂の友として、純粋な愛情を注げる相手として、ペットを飼う。もちろん、イヌでもネコでもいいのだが、マヨにとってそれはフェレットだった。ボクたちとのふれあいの一つ一つが栄養を送り、ずっと傷つき、くたびれ果てていた彼女のこころを元気によみがえらせたのだ。

 

人間のほんとうにだいじなもの

 

ボクたちが住んでいたトーキョーの家が、グラグラお湯が煮えくり返るように大きく揺れた。午後二時過ぎ、ちょうどお昼寝していたボクたちは、びっくりして跳ね起きた。

人間時間の二〇一一年三月十一日。ニッポンの東で起きた大地震。東北地方の海沿いの町には津波が押し寄せ、おおぜいの人間や動物(きっとフェレットも何びきかはいただろう)や、家やいろいろいなものをいっきに呑みこんだ。

さらに福島県では原子力発電所が事故を起こし、たくさんのホウシャノウが飛び散った。

そのまわりに住んでいた人間たちは別の安全な場所に避難したが、動物はそうした難所まで連れていけない。そこでウシやブタやニワトリなどの家畜は置き去りにされた。

そして、イヌやネコ、フェレットなどのペットもまた同じように取り残されることになった。「このコは家族なんだから」と言ったって通用しない。そこはもうそれまで暮らしてきた世界とは一変している。一つの大地震でそこにあったルールとか常識とかはこっぱみじんに吹き飛んで、べつのルール、べつの常識で動く世界になってしまっているのだ。

せめてものつぐないのつもりなのか、家の中のありったけのごはんを置いていった人もいるようだけど、そんなものはすぐに尽きてしまう。それに食べ物があればいいというわけではない。取り残された動物たちには、それまで家族のひとりとして愛してもらってきた記憶がしみついているのだ。その愛をなくして、今さらどうやって生きて行けというのか。

マヨは泣きながら、テレビでそのニュースを見ていた。

「どうしていっしょに連れて行かないのかな・・・」

彼女は思わずそうつぶやいた。もちろん、動物は避難所に入れないことは知っている。

「いっしょに連れていけば、もしかしたらその先に生きる可能性が見つかるかもしれないのに。手を放してしまったらそれでおしまいなのに」

そして、ボクたちに向かって言った。

「もしまた、あんな地震が来て、この街が壊れてしまって逃げ出さなきゃならないようなことになったらね、わたしはあんたたちをみんなキャリーに詰め込むよ。いやだといったって許さない。ビスケとメルキャ、チョコレとミクル、一つにふたりずつ。二つキャリーを両手に持って、背中のリュックにあんたたちのごはんとお水とオモチャをいっぱいに詰め込んで行くよ。わたしのものなんかべつにいらない。そんなものは何とでもなるからね。

だって人間のほんとうにだいじなものって、この両手に抱えられるものだけだもん。それ以上のものは持つ必要ないし、持ち続けることなんてできない。でも、あんたたちを抱えた手は何があってもぜったいに離さない。もし手放したら、二度と取りもどすことはできなくなるから」

 

その日、仕事の時間になり、マヨが出て行ったあとでボクは床に脱ぎ散らかされていた彼女の青いセーターにもぐり込んだ。

クンクンクン・・・ぬくもりとにおいがしみついていた。

フガフガフガ・・・ここちよくて何時間も夢中になって遊んでいた。

そのうちに眠くなってきたので、そのままセーターの中でねることにした。

こうしていれば安心だから。いつもマヨが守っていてくれるから。

ありがとう。むにゃむにゃ・・・。

 

5.空に帰る日

 

旅立ったメルキャ

 

フゥーフゥーフゥー・・・。

深夜。荒い寝息が聞こえてくる。マヨのベッドの下の片隅にある小さな暗闇の中から。

「メルキャ?」

そうマヨが声をかけた。そうだ。たしかにメルキャが立てる寝息だった。でも、それはあり得ない話だった。なぜなら・・・。

「なに? あんた、『また遊びに来ていいよ』ってわたしが言ったから、みんなに会いに来たの?」

その時、やつはもうボクたちといっしょに暮らしていなかった。いっしょにマヨんちで大きくなった四ひきのフェレットのうち、いちばん先に旅立ったのはメルキャだったのだ。

「せっかく遊びに来たのに、なんであんた、そんなところで寝ているの?」

マヨの呼びかける声が涙で少し詰まった。

 

フェレットの平均寿命は五歳から六歳。まれに十歳以上のフェレットもいるらしいが、ほとんどはイヌやネコの半分程度の年月しか地球上で生きられない。

メルキャの場合は、四歳を過ぎたころから病気がちになり、ひっきりなしに病院に通った末、五歳の誕生日を迎える前に逝ってしまった。

やんちゃしまくって、マヨから「うちのバカッチョ」と言われながら、かわいがってもらったメルキャ。せっかちだったので生き急いでしまったが、おなかいっぱい〈いたちのいのち〉を楽しんだのだから、きっと悔いはないだろう。

病気には苦しんだが、最後は「どうもありがと、兄ちゃん。ほいじゃお先に~」と、ホニャララ~という調子で、とぼけた顔を見せて空に帰って行った。

 

その次の年、やつは大好きだったミクルを迎えに来た。

ミクルはインスリノーマという、すい臓の病気にかかり、眠るように旅立った。

「でもね、わたしがまだミクルを送る心がまえができていなかったんで、メルキャは一日待ってくれていたんだよ」

マヨはそう話してくれた。

そのころ彼女は、かつておバカなガキンチョあつかいをしていたメルキャを、けっこう頼りにするようになっていた。いろいろ面倒を見てもらった恩返しのつもりなのか、空の国に旅立ってからのメルキャは、マヨのこころの叫びを耳にして、よく救いの手を差し伸べていた。

仕事に遅刻しそうなとき、踏切を開けてあげたり、信号をタイミングよく青に変えたり。彼女が送るSOSのサインをキャッチすると、スルスルスルっと中空から助太刀に入るのだ。

そして、やつは今度はボクのところへやってきた。あの夜、あのヘンな寝息を立てたのは、ボクを助けるためだったのだ。

 

メルキャとのきずな

 

メルキャの寝息を耳にした翌朝、眠りからさめてみると、なんだかからだの調子がおかしい。まるで自分が自分でないように思える。

それまで一度もトイレで失敗したことがないのに、そそうしてケージの中を汚してしまう。

ごはんはひと粒ひと粒、マナーを守って人間以上に上品にいただくのが、ボクの流儀なのに、自分でコントロールできない凶暴な食欲にかき立てられ、ガツガツがっつき、ボロボロこぼしてしまう。

水もいつもお行儀よくいただくのに、ガガガガガッといきおいよく飲み込み、ゴホゴホむせてしまう。これではまるでメルキャだ。

そこでハッと気がついた。やつがボクのからだに乗り移っている。なぜ? どうしよう? あいつがこっちをなつかしんで帰ってきて、ボクのからだをそのまま乗っ取ろうとしていたら・・・さすがにあわてた。あわてたせいなのか、ますます体調がおかしくなり、自分が変なにおいを出していることにも気がついた。

ボクの身に起こった異変を察知したマヨは、すぐさま病院に連れていき、医者に訴えた。

「このコ、ヘンなんです。ふだんと人がちがったように・・・いえ、イタチがちがったようになっちゃって・・・」

医者はボクを抱き上げ、クンクンにおいをかいで、

「そういえば少しノーマル臭がしますね。去勢していないオスのにおいです。ホルモンバランスが狂っているのかな?」

「先生、徹底的に検査してください。お願いします!」

それで検査してみたところ、副じん腫瘍(ガンの一種)が見つかり、すぐ手術になった。さいわい完治して元気を取り戻すことができた。そして自分が自分でないような、奇妙な行動もピタリと治まった。

「メルキャのおかげだね」

マヨとボクはお互いに納得した。やつはやつなりのやり方で(笑っちゃうようなやり方だけど)、けんめいにボクの病気をマヨに知らせようとしていたのだ。

メルキャ、キミの気持ちがわかってあげられなくてごめんよ。でもやっぱり、からだを乗っ取られるのはいやだな。またこういうことがあったら、今度は別の方法で知らせてくれないだろうか?

ボクはひそかにそうささやいた。

 

いっしょに暮らせる老人ホームの夢

 

人間時間のことを考える。

人間の平均寿命はニッポン人の場合、八十年を超えるらしい。少し長生きするフェレットでも寿命はその十分の一。そう考えると、人間にとって〈いたちのいのち〉は流れ星のようなものなのかもしれない。いっしょに暮らせる時間はとてもとても短いのだ。

でもひとつ、「幸せなことではないのかな」と思うのは、フェレットは、人間が齢を取ってもいっしょに暮らせるペットだということだ。

年老いた人間のこころのケアのために動物は大きな役割を果たせるという。けれどもその一方で、もし飼い主である人間の方が先に旅立ってしまったら? そのあと、誰も引き取ってくれる人、面倒を見てくれる人がいなかったら、残されたペットはどうなってしまう?という問題もある。

人間も動物も、いつ、どこで、いのちの幕が閉じられるのか、わからない。たとえば七十歳を過ぎた人が、さびしいからと言って自宅でイヌを飼い始めるのは、将来のことを考えるとためらってしまうだろう。

もし自分が先に旅立ってしまったら・・・。また、それ以前に老人ホームや病院に入ることになったら・・・。

ニッポンの現状では、こうした施設に動物は連れて入れない。〈ヒーリングアニマル〉として、よくしつけられたイヌやネコが慰問に訪れることはあっても、それが精いっぱいだ。

「もし、わたしにお金があったら」

マヨはときどきボクに言う。

「いっしょに暮していたペットを連れてきてもいいよ。ほかの人に迷惑がかからなければ、ここでいっしょに暮らしていいよって・・・そういうホームを作りたいな。」

それが彼女の夢だ。

「だって、だいじな家族なんだから」

そうだ。そうだよね?

 

ぼくの旅立ちの日

 

駆け抜けていく〈いたちのいのち〉。

一度はメルキャに助けられたものの、しばらくあとにはボクにもその日がやってきた。

人間時間・西暦二〇一六年三月三十一日。

「ああ、今日が旅立ちの日になるんだな」

誰かに教えられたわけではないけど、それがわかった。桜の花びらとともに春の風に乗って空の国へ旅立つのだ。

そんな思いを抱きながら、ボクは行きつけの動物病院のベッドの上に横たわっていた。その時はもうすでに意識がからだから離れていた。

「このコは七歳半ですか・・・寿命ですよ。よく面倒を見てあげましたね」

泣いているマヨに医者がそう言っているのが聞こえた。

「ほら、お別れしようね」

マヨは病院にチョコレを連れてきて、魂が抜けたばかりのボクのからだを見せていった。

「ビスケはイタチの天国へ行ったんだよ」

チョコレは冷たくなったボクのからだをフンフンフンフンけんめいにかぎ回っていた。

「どうしていつものように動かないのかしら? いっしょに遊びたいのに」

チョコレには、ボクがメルキャやミクルと同じように、空の国へ旅立ったことが理解できていないようだった。

その日、彼女はマヨんちに帰ってからも、キャリーケースからトコトコ出てくると、「ビスケはどこ?」と、ボクを探し回っている。

「さっきお別れしたじゃん。ビスケはもういないの」

そう言ってマヨがまた泣き出した。

いざ旅立ってみたものの、中空からそんな様子を見ていると、いたたまれなくなり、いったいどうしたものかと思案に暮れた。

二日二晩、考えたあげく、いいアイディアが浮かばなくて困っていると、どこかからボクを呼ぶ声がする。

「兄ちゃん、ビスケ兄ちゃん・・・・」

見ると、ちょっと上の方にメルキャとミクルが浮かんでいた。

「そんなところで何を考え込んでいるの? 困っているんだったら、さっさと行くっきゃないでしょ」

あとさきのことを考えないメルキャの行動力に背中を押され、次の朝、ボクは思い切ってマヨんちまで引き返した。

もちろん、からだはもうない。体重がないので、どうしても一か所に止まっていられず、フラフラ部屋のあちこちを動き回ることになる。しかし、そんな状態でも、ボクはチョコレに話しかけた。チョコレはさっき起きたばかりで、しきりと眠気まなこをこすっている。

「ボクは旅立った。メルキャもミクルもこっち側にいる。キミはもう少し人間の世界で、おなかいっぱいになるまで〈いたちのいのち〉を楽しめ」

とても短いメッセージだったけど、チョコレにはちゃんと伝わったようだ。いつものおてんばぶりはおくびにも出さず、「うん」とおとなしくうなずき、そこから離れていくボクを見送っていた。

起きたばかりのマヨもその一部始終を見ていた。姿は見えずとも、ボクがチョコレのところに来たことはわかったようだ。

その日が本当のお別れの日になった。

四月の青空の向こうへ、ボクは今度こそ旅立っていった。いや、正確には人間の世界での旅を終え、もといた天使の住む空の国へ帰って行った。

 

 

エピローグ いたち応援団

 

 〈いたちのいのち〉を持って、人間の世界へ向かう諸君、ボクの旅の話はこれで終わりだ。少しでもこの話をキミたちのために役立ててくれればうれしい。

 とはいえ、何度も言っているように、じつはボクのミッションはまだ続いている。ボクはずっとマヨを見守らなくちゃいけないのだ。こっちに来ても・・・いや、こっちに来たからこそ、フェレットのようにシンプルに楽しく生きることが苦手な人間をしっかり見守り、フェレットよりもずっと長い命を元気にまっとうできるよう、応援してあげなくちゃいけない。

 でも、その前にもう一度、あの頃のことを振り返って、マヨにお礼を言っておこう。

 

 毎日、ごはんとお水をありがとう。

 毎日、ねぐらのお掃除をありがとう。

 暑い夏は涼しくしてくれて、寒い冬はあったかくしてくれて、ありがとう。

 あんまり好きじゃなかったけど、ときどき、歯のそうじ、耳そうじ、つめ切り、おまけにおふろやシャンプーもありがとう。

 そして毎日、いっしょに遊んで楽しかった。

 人間の世界の話もいっぱい聞けて面白かった。

 チョコレをまだまだいっぱいかわいがってあげてね。

 それから今度は後輩たちがお世話になるかもしれないけど、どうぞよろしくね。

 

 ・・・ねえ、ボクの声、聞こえてる?

 あれ? ねてる? ねてたらまぁいいけど・・・。

 あ、だめだめだめ、よくない! これから仕事に出かける時間じゃん。もう起きないと遅刻だ。おーい、起きろ!

 ゾリゾリゾリ ゾリゾリゾリ ゾリゾリゾリ・・・・

 

★マヨのつぶやき

 

 ビスケがまた起こしに来てくれたよ。

 ここにいた時とおんなじ。ヤスリみたいな舌でゾリゾリ顔中なめ回してくれた。

 ありがとう、だいじょうぶだよ。

 ちゃんと起きて、今日も一日しっかり生きるよ。

 そして、ハッピーになるよ。

 

おわり