山田詠美はよくも悪しくも
デビュー作「ベッドタイム・アイズ」や
直木賞受賞作「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」が鮮烈過ぎた。
そのせいで黒人との恋愛・セックスを描く
女性作家という、偏見に満ちた、
スキャンダラスなイメージがついてしまったようだ。
白人にぶら下がる女はいいが、
黒人に寄っていく女はふしだら――
彼女が若い世代の作家として活躍した
1980年代から90年代はまだまだ
そうした“名誉白人”的な偏見・差別が
日本人の心の奥でとぐろを巻いていた時代だ。
僕はその後に出された「風葬の教室」
「晩年の子ども」など、
子どもを主人公にした物語が好きで、
山田詠美に対してはその側面の評価もけっこう髙いはず。
けれども、世間的にはやはり
「ベッドタイム・アイズ」のイメージが
べったり貼りついたまま、
ここまで来てしまったのではないかと思う。
それでも山田詠美は偏見的なレッテルなど
自らはがせる優れた作家で、
とてもバラエティ豊かな物語を描ける人だ。
コミカルなものからメルヘン、家庭劇、恋愛劇、
ちょっとセクシーなもの、SFチックなものまで、
21の短編からなるこの本は
そんな彼女の魅力を詰めこんだ、
詠美ワールドの入門編としておすすめ。
その中の一編「GIと遊んだ話(2)」を読んだら、
デルフォニックスの
「ラ・ラ・ミーンズ・アイ・ラブ・ユー」が
聴きたくなった。
いろんなミュージシャンがカバーしているが、
これがオリジナル。
クールで短い物語の中から
音楽が流れ出してくる筆致の素晴らしさ。
ぜひ味わってみて下さい。
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