週末の懐メロ179:放浪者(エグザイルス)/キング・クリムゾン

 

1973年リリース。名盤「太陽と戦慄」の挿入歌。

原曲は詩情あふれる佳曲だが、

それをパワフルな演奏に置き換えた、

想像を絶するアレンジのライブバージョンが

1975年発表のライブアルバム「USA」に収められた。

 

44年前の今ごろ、僕は演劇学校の卒業公演で

唐十郎の「蛇姫様」という芝居をやったが、

そのBGMとしてこの曲を使った。

 

「蛇姫様」は、第2次世界大戦直後、

朝鮮半島から日本へ渡ってきた

密航者のドキュメントをベースにしている。

 

追われるように故郷をあとにした女が

密航船の暗闇中で犯され、娘を産み落とす。

戦後の日本(九州・小倉)で育ったその娘が、

幻想や悪夢と闘いながら

自分のアイデンティティを探す旅をする物語だった。

 

じつは数年前、

高齢の在日韓国人2世の男性に話を聴く機会があり、

南北が動乱のさなかにあった1948年に

母・兄とともに密航船に乗って命がけで日本に来た、

というエピソードを聴いた。

 

当時まだ幼かった彼の記憶は曖昧だが、

密航船は船底に水が溜まっているようなボロい漁船で、

暗く狭い船内に20人ほどの密航者が詰め込まれ、

しける海を3日かけて航海したという。

 

夜中に日本にたどり着いて

(博多だったか下関だったか覚えていないという)、

密航者のほとんどは捕まって強制送還されたが、

彼らは靴をなくして探しているうち、

集団から外れたおかげで捕縛を免れ、

やがて大阪に行って暮らし始めたという。

 

この曲も「放浪者」という邦題がついていたが、

歌詞は異国で暮らす亡命者がふるさとの情景を追憶する

という内容なので、「亡命者」と訳す方が的確だろう。

当時はそんなこと何も考えていなかったが、

この曲は「蛇姫様」の物語に

ぴったりマッチしていたのだ。

 

1973~74年のキング・クリムゾンは、

ヨーロッパ・アメリカツアーを敢行し、

連日連夜、ステージに立っていた。

このライブ音源も1974年6月28日、

アメリカのアズベリー・パーク公演での収録を

編集したもの。

 

この時代のクリムゾンの大量のライブ音源は、

過去、CDとして様々な形でリリースされ、

YouTubeにも数多のバージョンが上がっている。

毎日、その日のノリでアレンジを変えていたので、

同じ曲なのに別の曲に聴こえることもあり、

めちゃくちゃバリエーション豊富なのだ。

 

ただ、「エグザイルズ」に限って言えば、

やはりこの「USA」における演奏が

最もアグレッシブでドラマチックで、いちばん好きだ。

 

特に今は亡きジョン・ウェットンのベースは圧倒的。

ヴォーカルも素晴らしく、

ウェットンの名声を高めた一曲と言っていいだろう。

 

もちろん「太陽と戦慄」収録の原曲も

美しくてミステリアスで好きだ。

 

キング・クリムゾンと言えば、

即興演奏や暴力的な音楽の凄みばかりが取りざたされるが、

中学生の頃の僕が虜になったのは、

彼らが醸し出すメロディの美しさに他ならない。

クリムゾンの音楽は僕の心のなかに輝きを産み出し続ける

永遠の錬金術なのである。

 

 

今はまだ地球がふるさと

おりべまこと

14歳の女の子の夢と想像と現実が入り混じった日常生活を描く青春×終活×謎の空飛ぶ円盤ファンタジー。

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