1972年にリリースされたイエスのアルバム
「危機」を初めて聴いたのは1975年。
高校に入って間もない春のことだった。
「危機 Close to the Edge」
「同志 And you And I」
「シベリアン・カートゥル Siberian Khatru」
収録曲はわずか3曲。
いずれも18分、11分、10分という
今では考えられない超大曲だが、
その充実度と緊張感、そしてスケールの大きさにのけぞり、
鳥肌が立ちまくった。
中学生の時にプログレにハマって、
ELP、ピンク・フロイド、キング・クリムゾンと聴いてきて、
真打はイエス。
あの時はついに頂点にたどり着いたと思った。
率直に言って、これはELPの「頭脳改革」も、
フロイドの「狂気」も、
クリムゾンの「宮殿」も超えていた。
最高のプログレ、いや、最高のロック、世界最高の音楽!
生涯でこれ以上の楽曲には出会えない、とさえ思ったことは
鳥肌のブツブツとともにずっと体内に残っている。
若さゆえの興奮と感動だったが、
じつはその思いは50年近く経った今でも
そんなに変わっていない。
その後、15歳の頃とは比べ物にならないほど
たくさんの、いろんな音楽を聴いてきて、
好きな曲もいっぱいできて、ランク付けなどできないが、
いまだに「危機」が最高峰にあることは確か。
いつ聴いても心動かされ、
精神的なエネルギーをもらっている。
川の流れや鳥の声など、自然音のミックスに続いて
不協和音が嵐のようにうねるイントロ、
そしてメインテーマに流れ込んでいく下りは、
カオスから宇宙が生成され、
地球が生まれてくるドラマを表しているようだ。
東洋哲学が反映された歌詞は抽象度が高く、
和訳を読んでみても、意味がよくわからない。
ただ、70年代のイエスは、
人間の友愛、世界の調和をテーマとして音楽を作っており、
その基本姿勢は美しいメロディラインからも感じとれる。
僕の耳には世界の生成と、人間はいかに生きるか、
人生という旅路のイメージを思い描く曲として響いてくる。
スタジオ盤は非常に繊細なつくりだが、
この1975年のライブではそれと対照的な、
あえて荒れた感じのアグレッシブな演奏になっており、
ライブならではの臨場感が楽しい。
メンバーのラインナップは、
スタジオ盤制作時からビル・ブラッフォードが抜け、
ドラムはアラン・ホワイト。
キーボードはリック・ウェイクマンから
パトリック・モラーツに交代した時期。
モラーツはごくわずかな期間しかイエスに在籍しておらず、
その後の度重なる再結成時にも参加していないので、
このパフォーマンス映像は貴重だ。
この頃、メンバーはまだ20代半ばの若者たち
ということにも驚く。
超絶テクでギターを弾きまくるステーヴ・ハウ、
ヴォーカル ジョン・アンダーソンの美声、
そして、それをサポートするクリス・スクワイアの
バックヴォーカルと、
こ曲のエネルギッシュな“うねり”を創り出す
躍動的なベースプレイ。
今は亡きスクワイアのカッコいい雄姿に、
彼こそがイエスのリーダーだったことが
如実にわかるライブとしても価値がある。
1960年代から70年代、
音楽の神がこの星に降りていた。
この時代にイエスの創造した楽曲は、
やはり地球上に起こった一つの奇跡だったことを
改めて実感する。
そして、中高生という、まだ子どもの時代に
胸に響いたもの、強く感じとったものこそ、
自分の人生にとって本当に価値あるもの・
大切なものなのだ、ということも。
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