1971年リリース。
最高傑作アルバム「フーズ・ネクスト」の挿入歌で、
ザ・フーのキャリア全体を通じても最高の一曲。
さらに言えば、60年代から70年代の
ポップロック、ハードロック、プログレッシブロックの
美味しい部分をすべて凝縮した、ロック史に残る名曲だ。
♪この荒野で俺は糧を得るために戦う
生きるために全力を尽くす
正しさを証明するために
戦う必要はないし 許される必要だってない
そんな歌詞で始まるこの曲は、
スコットランドの農民が、
妻と子供を連れてロンドンへ脱出する
という物語を音楽で描く
「ライフハウス」というロックオペラの一曲だった。
ところが、この「ライフハウス」の構想がまとまらず、
通常のスタイルのアルバムに挿入された。
結果的には単独曲となったことで
ザ・フー随一のヒットナンバーになったのかもしれない。
タイトルも当初は歌詞に沿って
「Teenage Wasteland(10代の荒野)」と
つけられる予定だったが、
インドの神秘家メヘル・バーバー(Meher Baba) と、
アメリカの作曲家テリー・ライリー(Terry Riley)の
ファーストネームを合わせたものに変更された。
これは当時、作詞・作曲の
ピート・タウンゼント(ギタリスト)が
メヘル・バーバーの思想にいたく
傾倒していたことから来ているようだ。
ザ・フーはこの頃、スピリチュアルな物語を
ロックオペラというスタイルで
ドラマチックに表現することに取り組んでおり、
大成功をおさめた1967年の「トミー」は
ケン・ラッセル監督によって1975年に映画化、
その後、ミュージカルとして舞台化もされた。
戦争に行った夫が戦死したと思っていた
妻は新しい男と恋に落ちた。
けれどもその男との情事の最中、死んだはずの夫が帰還。
夫は怒りにまかせて情夫を殺してしまう。
ところが、その様子を幼い息子トミーが見てしまった。
あわてた父と母は息子に言い聞かせる。
「あなたは何も見なかったし、何も聞いていなかった」
「このことは誰にも話してはダメ」と。
両親から与えられたそのトラウマによって、
トミーは見ることも、聴くことも、
話すこともできないという三重苦を負ってしまう。
そんなストーリーのロックオペラ「トミー」は
トミーが三重苦を克服し、
自己を解放し、自由に羽ばたくという内容で、
僕は高校生の時にその映画を見たが、
カルチャーショックを受け、
自分の中の重要な音楽体験・映画体験として残っている。
「10代の荒野」だった「ババ・オライリー」では
最後にこう歌う。
♪10代は不毛な時代 たかが10代の荒野
10代は不毛な時代 10代に実りはない
全てが無駄なんだ
「ライフハウス」がどんな物語だったのかわからないが、
10代に何を体験するか、
そしてその後、その体験をどう捉えるかで
人生は大きく変わるのだと思う。
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