週末の懐メロ169:ロケットマン/エルトン・ジョン

 

1972年リリースのエルトン・ジョンの楽曲のために

イラン出身の映像作家マシッド・アディンが

アニメーションのミュージックビデオを製作。

半世紀前の懐メロの傑作にみずみずしい息吹を吹き込んだ。

 

エルトン・ジョンは1970年代から活躍してきた

指折りのロックスター。

「ユア・ソング(君の歌は僕の歌)」

「グッバイ・イエローブリックロード」などの

世代を超えた大ヒット曲、

そして、1997年に交通事故死した

プリンセス・ダイアナを追悼した

「キャンドル・イン・ザ・ウィンド」は、

誰でも一度は耳にしたとがあるだろう。

 

「ロケットマン」も

全英シングルヒットチャート2位、

米ビルボード6位を記録したヒット曲ではあるが、

日本ではあまり知られていない。

 

この曲は長年、エルトン・ジョンとのコンビで

作詞を担当してきたバーニー・トーピンが

SF作家 レイ・ブラッドベリの

短編小説「The Rocket Man」(1951年)に

インスパイアされて生まれた曲と言われている。

 

描かれるのは、人類の新たな開拓地となった

火星に向けて一人で旅立った宇宙飛行士の男が

家族を思う心情。

 

♪火星は子供を育てられるところじゃない

ひどく寒くて そんなことは考えられない

科学のことをよく知っているわけじゃないが

これが僕の仕事 週に5日の仕事

僕はロケット・マン

たった一人、宇宙でいつか燃え尽きてしまう

 

1960年代の終わりから70年代前半にかけては

アメリカのアポロ計画が成功し、

宇宙開発に人々の意識が向けられた時代だ。

ロックの世界でもミュージシャンたちが

宇宙・宇宙旅行・異星人とのコンタクトや

異性の文化との交流などをテーマにした楽曲を

数多く作っていた。

 

この曲もそうしたムーブメントに

影響されたものの一つと取れるが、

片や、家庭を顧みることなく

ひたすら労働することで人生をすり減らしていく

産業戦士の孤独と悲哀を想起させる歌にもなっている。

 

それはエルトン・ジョン自身の

現実の人生にも言えることなのかもしれない。

 

半年前、昨年(2023年)7月に

最後のワールドツアーを終えた彼は、

今後、公演活動から引退すると宣言した。

今年76歳。

同世代のスターミュージシャンたちが

次々とこの世を去っていく昨今、

理由は当然、高齢による健康上の問題かと思いきや、

音楽活動よりも家族との時間を優先させたいからだという。

 

ゲイのエルトン・ジョンは2014年に男性と結婚。

現在、代理母出産によって授かった二人の男の子の

子育てに従事しているという。

70歳を超えて母性に目覚めたのか?

元気な2人の少年の相手をするには

体力的に厳しいとは思うけど。

 

火星での長い任務を終えた「ロケットマン」が

やっと地球に還って来て、新しい人生を歩み出す。

そんなイメージを抱かせる決断。

エルトン・ジョンのセカンドライフのスタートは、

1972年には思いもかけなかった、

ライフスタイルの変化と、

テクノロジーの恩恵に満ちた、

21世紀型の新しい生き方と言えるのかもしれない。

 

そして、70年代前半に盛り上がった

宇宙開発のムーブメントは、

半世紀の時を超えて、ふたたび大きくうねり始めている。

 

一般人が宇宙旅行に出かけたり、

新たな資源の採掘など、

宇宙ビジネスが話題になることも増えてきた。

2024年、人々の意識はまた宇宙に向かっていく予感がする。

現実的な「ロケットマン」の世界は、

じつはこれから始まるのかも知れない。

 

★ケイト・ブッシュ版(1991)

 

なお、この曲が大好きだというケイト・ブッシュが

1991年にリリースしたカヴァーをリリース。

 

「呼吸」「ビッグスカイ」

「こんにちは地球」「ロケットテイル」など、

地球・宇宙をテーマにした自作の楽曲も多い彼女が、

オリジナルをリスペクトしながらも

独自のアレンジで、レゲエ風のリズムや

他の民俗音楽のエッセンスを取り入れた味付けで

超絶すばらしい傑作に仕上げている。

 

ミュージックビデオの出来も最高レベルで、

必聴・必見の音楽コンテンツになっている。