先日、カミさんが義母を連れて買い物に出かけた。
途中、高校の前を通ったら、
二人連れの女子高生の前にいきなり飛び出していって、
「こんにちは!元気ぃ~!」と大声であいさつした。
もちろん、女子高生はびっくりしてドン引き。
カミさんがあわてて義母をたしなめ、
「ごめんなさい」とその子たちに謝った。
ひとりは「だいじょうぶです」と笑っていたが、
もう一人はずっと顔が引きつったままだっただったらしい。
いずれにしてもそれで無事に収まり、
そのまま立ち去ったが、
背中で「なにあれ!?キモっ!」とかなんとか、
引きつってたほうが叫んでいたという。
腹も立たないし、説教するつもりもない。
僕も高校生だったら似たような
リアクションを取っただろう。
ちょっとびっくりしたのは僕が知る限り、
通常、義母は女子高生なんかに挨拶しない。
カミさんの話によると、
一人が高校生の頃の妹(つまりもう一人の娘)に
ちょっと雰囲気が似ていたらしい。
イメージがダブったのか、
あるいは僕といる時と、カミさんといる時と、
気分の違いで、違ったイメージが湧きだすのかもしれない。
義母は愛想がよく、社交的な人と思われていて、
デイサービスなどでもムードメーカーになっているらしい。
実際、そういう一面があって、
僕と散歩するときもすれ違う人に
元気な声で「おはようございます」とか、あいさつする。
しかし誰彼かまわずというわけではない。
ちゃんと瞬時に相手が返してくれるかどうか読み取り、
返してくれそうな人にだけあいさつするのだ。
その打率はだいたい7~8割。
けっこう高い精度である。
認知症だからといってバカではない。
論理的思考が働かない分、直観力は優れているのだ。
観察していると、声をかけるのは大まかに言って、
子供、子供連れの母親・父親、犬連れの人、
工事の人、掃除の人、トラックの運ちゃん、
警備員、お巡りさん、鳥を撮っているカメラマンなど。
子連れや犬連れ以外は年齢高めの人が多い。
やっぱり齢の功というべきか、経験豊富というか、
単にヒマというか、高齢者はちょっと奇異に感じても、
ちゃんと余裕をもって挨拶を返してくれる。
その点、前述の女子高生のように
人生経験・社会経験の浅い若いもんは
見たこともない変化球を投げられるとビビってしまう。
義母もそのへんがわかっているのか、
子供でも小さい子はいいが、
小学校の高学年以上になるとあいさつしない。
10代から30代くらいまでの若輩者に
声をかけることは稀である。
特に女性には、若いママさんグループなども含め、
近づこうとしない。
それから肉体労働系の人には愛想がいいが、
スーツなどを着込んだインテリ系、
ちょっとスカしたアート系などにも声をかけない。
高齢者でも気難しそうな顔をした人にはあいさつしない。
僕といるときはしたことがないが、
肉体労働の人が休んでいるのを見ると寄っていき、
「あら、あなた、いい体してるわね」と、
ペシペシ背中を叩いたりすることもあるらしい。
こうして書き出してみると、
なンとなく彼女が交流したい
人間のカテゴリーが見えてくる。
べつにいいとか悪いとかの区別はないが、
やはり社会から離脱した人なので、
忙しい競争社会の真っただ中にいる人や、
そこに入ろう・順応しようとしている
おとなになりかけの子供たちは避ける傾向がある。
自分の相手をしてくれるのは、
まだ社会化されていない小さな子や、
逆に社会からリタイアした年寄り、
ちょっと社会から外れた人たちというところか。
そういう意味では、川沿いの散歩道は、
ちょっと日常の世界ら外れて
遊んだり休息できる雰囲気があるので、
あいさつを返してくれる人が多いのもしれない。
ビジネス街や繁華街でこんな変化球が飛んで来たら
気味悪がってよけるしかないが、
ここなら「まぁ、こんな人もいるよね」と
キャッチできる、
危害がなければ、多少おかしな人がいてもOK、
その方が面白いということだろうか。
自然がたくさんある環境なら良いというものでもない。
そこに暮らす人たちがどんな心境でいられるかが大事。
義母には教わることが多い。
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