頭にお皿、背中に甲羅、口はくちばし状、手足に水かき、
からだは人間の子ども(幼児~小学校低学年)
くらいの大きさで、
皮膚がヌメヌメしていて体色は緑系。
いたずら好きで、キュウリが大好物。
過去100年くらいで、
日本人の間にそんなカッパのイメージが定着した。
地域によってまちまちだった呼び名も、
かの芥川龍之介が、死の間際、
そのものズバリ「河童」という小説を書いてから
統一された感じがする。
そのカッパは実在するのか否か?
その他、柳田国男の「遠野物語」をとっかかりに
東北の民話の世界を探検し、
登場する怪異・妖怪の類の秘密を解き明かそう
というのがこの本「荒俣宏妖怪探偵団 ニッポン見聞録」
の趣旨である。
おなじみ、この手の妖怪学・博物学の大家・
荒俣宏先生を中心に、
小説家・理学博士がチームを組んで、
東北各地の大学教授・学者、博物館などの研究員、
郷土研究家、お寺の住職などを訪ねて回る。
面白いのは、たとえばカッパに話を絞れば、
みんな、カッパの実在を肯定していること。
ただ、そのカッパとされる妖怪は、
“現代人の視点で見ると”、
どれも別の様々な生き物であるという点だ。
あるところではそれはウミガメだったり、
あるところではイモリ、あるところではカワウソ、
あるところではネコだったりする。
それら爬虫類・両棲類・鳥類・哺乳類にまでまたがる
多種多様な生き物が、
「カッパ」という妖怪・生き物に
ひとくくりにカテゴライズされていたのだ。
どういうことかというと、
人間は自分(あるいは自分を取り巻く社会)が持っている
知識・情報の埒外にあるものと遭遇したとき、
「わけのわからないもの」としておくことができず、
それを分類するために
特定のファイルみたいなものを必要とする。
その一つに「カッパ(地域によって呼び名は異なる)」と
題されたファイルがあり、
「これは何だ?わからん」と思ったものをみんな、
とりあえずそのカッパファイルの中に突っ込んでいたのだ。
だからそれぞれの動物の特徴・生態・イメージが、
そのファイルのなかで混ざり合い、繋がり合い、
時には化学変化を起こして、
カッパという妖怪の形になって
多くの人々の頭のなかに生息するようになり、
民間伝承として伝えられるようになった。
そしてまたその伝承・民話をもとにして
時代ごとに絵師などがカッパの姿を絵として描き上げた、
ということらしい。
僕たち現代社会で生きる人間は、
科学的に解明された知識・情報を
すでに頭のなかに仕入れてあるので、
これは犬とか、カエルとか、ウサギであると知っている。
だから、なんでカメやイモリやカワウソやネコを
カッパだなんて思ったんだろう、と不思議がるが、
それは逆で、カッパというファイルの中から
Aタイプが実はカメで、Bタイプがカワウソで、
Cタイプがネコだった・・と、
後で(だいたい明治以降~昭和初期の間に)
分類・整理されたのである。
言い換えれば、江戸時代以前の日本人にとって、
奇妙な野生動物は皆、UMA(未確認動物)であり、
ほんの150年ほど前まで日本の海も山も里もUMAで
溢れかえっていたのである。
この本ではカッパ以外にも
いろいろな妖怪・民俗学的伝承が紹介されているが、
そうした昔と今の人間の心の地図の違いについて
気付かせてくれることに重要な価値があると思う。
荒俣宏妖怪探偵団 ニッポン見聞録 東北編
著者:荒俣宏/荻野慎諧・峰守ひろかず
発行:学研プラス 2017年
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