あなたのワンちゃんが今、ウンコしましたよ!

 

「あなたのワンちゃんが今、ウンコしましたよ!」

 

とは言えなかった。

川沿いの遊歩道にワンちゃんをお散歩に連れて来た

おしゃれなヤングマダムは、

旦那か子どもかお友だちかわからないけど、

掛かってきた電話に夢中。

 

その足元でワンちゃん(小型犬)が

自分に注意が払われていないのを

これ幸いと思ったのかどうか、

よっしゃと言う感じで地面にお尻を落とした。

 

ときは春うらら。

舗装された遊歩道のわきの道には

みどりの草が萌え始めている。

その萌えた草の上にお尻を落として、

うーんとふんばってるのだ。

 

あの格好は、もしや!

川の向こうからその瞬間を目撃した僕は

思わず足をとめて見た。

遠目からも二本の後ろ足の筋肉に力が入り、

お尻の真ん中あたりが

小刻みにピクピク震えているがわかる。

 

出る。

僕がそう思ったとたん、

ワンちゃんのお尻から

むにゅっと茶色の物体が出てきたのが目に飛び込んだ。

 

しかし、飼い主さんは電話で喋っていて、

そんなことはつゆとも知らない。

 

ワンちゃんは「あー、すっきりした」と満足気。

からだが軽くなったのか、

気持ちよさそうにピョンピョン跳ね始める。

飼い主さんはちらりと

そんな彼(彼女かもしれない)に目をやったが、

その下にある落とし物には

まったく気が付かない。

電話はまだ終わらず、

何やら笑って喋りながら、

そのままハーネスのリードを引っ張って歩き出した。

 

僕の口からは思わず、タイトルのセリフが喉まで出かかった。

「あなたのワンちゃんが今・・・」

が、なにせ川を挟んだ向こう側で5,6mは離れている。

周りに聴こえるような大声で叫ばなくてはならない。

それを聞いた彼女の心に巻き起こる嵐のことをを想像すると、

とてもそんな勇気は出なかった。

 

そよ風が吹くおだやかな春の午後。

あの草の上の犬のウンコが、

お散歩やジョギング中の誰かに踏まれることなく、

無事、土に還ってくれるのを願うばかりである。

 

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小学4年生の女の子カナコとペットのフェレット「イタチ」とのおかしてくちょっと切ない友情物語。フェレットの飼い主さんはもちろん、ワンちゃん・ネコちゃんの飼い主さんにも読んでほしい動物ファンタジー。

 

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