中学生の頃、日本の若者の音楽と言えば
フォークソングだった。
井上陽水ももちろんフォークシンガーであり、
シンガーソングライター。
けれども彼の歌には、それまでのフォークにはない
一種の異様さが漂っていた。
爽やか系でも、夢・希望系でも、哀愁系でも、
コミカル系でも、バカヤロー系でもなく、
ロックともフォークともつかない陽水ワールド。
あえてカテゴリー名をつけるとすれば、
劇画・文学系フォークロック?
いずれにしても「傘がない」「断絶」
「人生が二度あれば」「心もよう」などの
ヘヴィな楽曲群に、
当時の中学生は、まだ体験していない
人生の現実の奈落に叩き込まれたような気になった。
とくに「人生が二度あれば」や「心もよう」の
エンディングにはもう絶句するしかなく、
とても軽口を叩けるような雰囲気ではなかった。
そして、その真打として1993年にリリースされたのが、
この「氷の世界」である。
大寒波で毎日吹雪が吹き荒れる中、
リンゴ売りが声を張り上げるわ、
テレビがぶっ壊れっるわ、
ノーベル賞を狙っている引きこもりは出て来るわ、
わけのわからないアヴァンギャルドな歌詞が
ファンキーなリズムに乗って荒れ狂う。
ファンクともプログレッシブロックとも取れる歌だが、
けっして難解でなく、どこかポップで陽気でユーモラスで、
心地よく聴けてしまうところが陽水のすごいところ。
思うにそのポップさ・陽気さのエッセンスが拡大して、
80年代以降に変貌した「ニューミュージック陽水」に
繋がっていったのだと思う。
ところで歌詞の冒頭に出てくる「リンゴ売り」って、
いったいいつの時代の話?と思う人は多いだろう。
陽水が子どもの頃(昭和20年代)には、
まだ街中にそうした行商がいたのかなとか、
それとも昭和歌謡の「りんごの唄」(並木路子)などを
意識したのかなと思っていたが、
べつに関係ないらしい。
ちなみにリンゴ売りは
絶滅した昭和レトロビジネスではなく、
デジタル令和の今でもちゃんとあって、
リンゴを売り歩いて一日ン10万稼ぐとか、
それで一家7人養っているという人も本当にいるようだ。
この事実にもまた絶句。
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