♪サ、サ、サ、サラダ
サラダの国から来たむすめ
という歌が、かつてあったが、
サラダの国のプリンセスと言えば、
何と言ってもポテトサラダである。
並みいるサラダの中で総選挙をやれば、
ぶっちぎりでトップ当選。
日本においては、まさにサラダ界のスーパーアイドル。
いまや多種多様な味・食感を揃えた
ダイバーシティなポテサラ専門店まで出現し、
繁盛する時代である。
まさかその事実を知らずして、
スーパーやコンビニの弁当と同じ、
業務用の在りもののポテサラを
袋から出してまんま盛り付けている飲食店はあるまい。
もしあったとすれば、その店は日々、
顧客からの信用を落としている、と認識した方がいい。
表題にある「ポテトサラダがおいしい店は信用できる」は、
かの「孤独のグルメ」の主人公・
井之頭五郎氏のセリフだが、
裏返せば、
「ポテトサラダに魂を入れられない店は信用できない」
ということになる。
ポテトサラダはいかようにでもオリジナリティが
発揮できるサラダである。
材料となるジャガイモも、
男爵、きたあかり、とうや、メークイン、
アンデスレッド、インカのめざめなど多種多様。
僕も好きなのでよく家で作る。
自分が好きなものを作る時は、
なんとかうまいものにしてやろうと手が動く。
ゆでるのではなく、圧力釜で蒸し、
うまみを凝縮して柔らかくしたやつを
つぶして湯気が出ているところに
バシャッとお酢をぶっかけ、ガバッと粉チーズをふる。
それに定番としてタマネギ、ゆで卵、
あとはキャベツ、キュウリ、ニンジン、
ブロッコリーの茎などを投入し、
マヨネーズをにゅるにゅるっと絞って混ぜ合わせる。
といったレシピを基本に、その日の気分と
ぶち込める材料、調味料によっていろいろアレンジする。
ポテサラはその人の個性・嗜好・工夫、
そして、その瞬間のフィーリングが如実に反映される。
「これがうちのポテサラじゃ!」
と、愛と自信と誇りを持って客に出せるか?
それとも、どうせ付け合わせなんだからと
適当に済ませるか?
自分で作ると分かるが、ポテサラを作るのは、
けっこう手間暇がかかる。
コロナでダメージを受けた飲食店としては、
経営立て直しの必要性から
付け合わせなんぞに手間暇かけず、
市販の出来合いでパッと済ませて、
その分、生産性を上げたいと考えるのが常道だ。
しかし、手を抜いていいものと駄目なものがある。
いくらメインのハンバーグがうまくても
ポテサラが駄目ならハンバーグも減点されてしまう。
しかし、しょせんは付け合わせである。
そんなことを口に出して言う人はほとんどいるまい。
皆、井之頭五郎のように
「ここのポテトサラダは間に合わせの業務用か。
これは残念だ」
と心の中で不満げに呟くばかりである。
彼がもう一度、あなたの店に戻ってくる確率は
限りなく低い。
僕たちは目の前にある問題を合理的・効率的に解決し、
生産性・経済性を上げようと躍起になる。
手っ取り早く稼いで、
あわよくばさっさとリタイアしちまおうと考える。
しかし、そんなことがうまくできるのは、
ごくわずかな幸運で、選ばれた人間だけだ。
あなたはおそらく違う。
僕も違う。
僕たちは残念ながら選ばれし人間などではない、
あまりにも平凡な、どこにでもいる、
いつでも取り換え可能な、十把一絡げの人材だ。
そんなしょーもない凡庸な輩が、
出来合いのポテサラを提供して
うまくしのいでいると思っているかも知れないが、
「あの店には二度と行かないよ」と
井之頭五郎らに心の中で言われ、
いつの間にか信用を失くしているのだ。
汝、付け合わせのポテトサラダに手を抜くなかれ。
どうしようもなく平凡で、ありきたりでも、
愛と魂と情熱と己のグルーヴを込めて作った
ポテトサラダには自然と個性がにじみ出る。
あなただけのサラダプリンセス。
僕だけのポテポテアイドル。
食いに来た客の10人に一人は
「この店は信用できる」と言ってくれるかもしれない。
そして、100人に一人ぐらいは
「好きだ。愛してる」と言ってくれるかもしれない。
みんな、あなたや僕の店の工夫と頑張りを
ちょっとぐらいは期待してくれている。
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