1月15日放送のNHKのETV特集
「弔いの時間(とき)」は、けっこう衝撃的だった。
葛飾区(青砥/立石)にある想送庵「カノン」における
ドキュメンタリー。
この施設は故人の安置施設で、
遺族が心行くまで故人と別れの時間を持てるように、
と作られた。
いわば最後のお別れのためのホテルである。
葬儀社の葬儀会館と違うのは、
家族や友人が亡くなった人と
最後の時を共有するのが目的の空間なので、
必ずしもここでお葬式をやる必要はないということ。
実際、ここから直接、火葬場へ行く人も少なくないらしい。
逆にここでお葬式をするときは、
葬儀社の葬儀会館ではできないような
自由なお葬式というか、お別れの会ができる。
番組で紹介されたのは、21歳で自殺してしまった女性と
70歳で亡くなったコピーライターの人のお葬式。
前者は3年前の出来事で、お母さんがとつとつと
その時の情景と心情を語る。
子供に先立たれたら、
哀しみで気が狂いそうになるだろうと想像するが、
何かがそのお母さんをそうさせなかった。
哀しみに沈むのとは逆に、
その子の友だちが大勢集まって、
わいわい笑い声が飛び交い、
施設が一種の祝祭空間のように変わってしまったとのこと。
もちろん、その映像はないが、
話と遺影や飾りつけだけで
その時の情景がありありと思う浮かべることができた。
後者はリアルタイムで
テレビカメラがお葬式を取材していた。
そのご家族はビデオでその人の亡くなる瞬間を撮影し、
その動画を参列者に見せた。
奥さんは哀しみの感情を隠すことなく、
参列者の前で歌を歌った。
どちらもけっして異常だとは思わない。
親しい人間の死は、
その周囲の人間にいろいろな感情を与え、
いろいろな行動を取らせる。
もしかしたら、このカノンという施設の空間には
一種のマジックが働いて、
悲しみに沈みこむという感情の定型パターンから
心が自由になれるのかもしれない。
30年ほど昔、「泣き女」を主人公にした
演劇的葬式が開かれる世界についての
ラジオドラマを書いたことがある。
脚本賞をいただいて放送してもらったが、
なんだかそれが時を超えて実現したのを
見たようが気がした。
普段から葬儀供養の雑誌の仕事をしているので、
変わった葬式の話は割と聞き慣れている方だが、
それでもやっぱりこれは衝撃。
いい・悪いではないが、何かものすごく心が揺れた。
しばらくはうまく言語化できない。
興味のある方は、今週いっぱいなら、
NHKプラスの「#ドキュメンタリー」のところで
見られます。
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