シン・ウルトラマンとイデ隊員とウルトラマンの本質

 

「僕が作った武器なんて何の役にも立たないんだ。

怪獣はみんなウルトラマンが倒してくれるんだから」

 

無力感に苛まれたイデ隊員は、戦うことを放棄して

空に向かって声を振り絞ってウルトラマンを呼んだ。

 

「ウルトラマーン、早く来てくれ。

ウルトラマーン!」

 

ウルトラマンであるハヤタ隊員はその姿を見て、

変身するのを躊躇ってしまう。

 

初代ウルトラマンの第37話「小さな英雄」は、

子ども心に全エピソード中、最も感動的な話だった。

じつはこの回の主役は怪獣ピグモンなのだが、

僕の中では完全にイデ隊員が主役だった。

 

イデ隊員は第23話「故郷は地球」でも主役だった。

辺境の惑星で怪獣になってしまった宇宙飛行士ジャミラは

人間に復讐するために地球に帰って来た。

科学特捜隊は、彼の正体を隠したまま、

抹殺しろと命令を受ける。

破壊を繰り返すジャミラにイデ隊員は悲痛な叫びをあげる。

「ジャミラ、おまえは人間の心さえ失くしてしまったのか!」

 

昨年亡くなった二瓶正也さん演じるイデ隊員は、

科学特捜隊の兵器やマシンを開発する天才科学者でもある。

しかし、○○博士といった威厳ある趣はみじんもなく、

ヒラ隊員に甘んじており、

普段はひょうひょうとした3枚目キャラだ。

 

けれども彼のシリアスでヒューマンな面を印象づけた

この2つのエピソードが

「ウルトラマン」のトーンを決めた。

イデ隊員が表現する人間性こそが

「ウルトラマン」の本質なのである。

当時、僕は6歳だったが、

子どもの胸に入り込んだものは、

とてもとても信じるに値する。

 

「シン・ウルトラマン」は劇場で一度見たが、

配信が始まったので昨日、家でもう一度見た。

ここには、かつてのウルトラマンという物語の

エッセンスが凝縮されている。

 

細部にわたる庵野監督の仕掛けはさすがだと思う。

旧作へのオマージュもふんだんに盛り込まれている。

さらに現代社会への風刺も。

 

世界は核兵器による脅し合いで成立している。

核に代わるパワー、核を凌駕するパワーを

どの国も求めていることが、

登場人物のセリフから伝わってくる。

 

ウルトラマンの軍事利用。

ベータシステムの政治利用。

メフィラスとの交渉シーンでは、

そのあたりが実にうまく表現されている。

メフィラスを演じる山本耕史は最高だ。

 

そうした現代ならではの要素

(実は55年前と大して変わっていないけど)を

盛り込みつつ、ちゃんと本質を抑えている。

 

「シン・ウルトラマン」を観ていて

僕にイデ隊員を想起させたのは、

有岡大貴が演じる禍特対(禍威獣特設対策室専従班)の

滝明久である。

滝は粒子物理学者で、かなりの天才らしいが、

メンバー中最年少の若僧。

 

劇中、けっこう生意気な口を叩くが、

最後のゼットン登場によって、

「小さな英雄」のイデと同じく、

深い無力感と絶望感に苛まれる。

 

「ウルトラマンも勝てない相手だ。

もう人間はおしまいなんだ」

彼には少しエヴァのシンジくんも入っているようだ。

 

けれども滝もまた、あの時のイデ隊員と同じく、

奮起し、自分のできることをする

(それがすごいんだけど)。

 

人間がアホで能なしで臆病で、

しょーもないゼツボー的生き物であることは

わかっているけど、そんな現実に

めげてないで一生懸命やるしかないのである。

一生懸命やってれば、いつかどこかで

ウルトラマンも助けてくれるかもしれない。

一口で言えば、

それがウルトラマンという物語のメッセージだ。

 

ウルトラシリーズで最も評価されているのは

「ウルトラセブン」だと思う。

確かにセブンは引き締まったシリアスな展開で、

おとなっぽくてドラマとしての質も高い。

 

それに対して「ウルトラマン」は

メルヘンあり、コメディあり、ホラーあり、

ファンタジーありの子どもっぽいバラエティだ。

(前作の「ウルトラQ」の世界を引き継いでいる)

 

おそらく初めて観た時の年齢が関係していると思うが、

僕は子どもこ心に訴える、

柔らかで広がりのあるコンテンツとして、

戦闘的なウルトラセブン

(およびその後のシリーズの各作)よりも

ウルトラマンのやさしいヒューマンな物語が

好きなのである。

 

ただ、おとなになった今、原本のウルトラマンは、

さすがに稚拙さ・子どもっぽさが目立って

まともには見られない。

 

今回の「シン・ウルトラマン」は、

2時間の重厚でリズム感あふれるドラマに仕立て上げて

その真髄を見せてくれた。

ラストもキレがあり、シャレが効いている。

 

願わくば「故郷は地球」のエピソードを活かしてもう1作。

最終兵器のゼットンを出しちゃったから無理かと思うけど。