週末の懐メロ100:ザ・ローズ/ベット・ミドラー

 

1979年リリース。

誰もが知る名曲中の名曲だが、

僕にとっては、冒頭の騒然としたざわめきと

ピアノのイントロが交わる数秒間こそが

本物のザ・ローズの泣かせどころである。

 

ベット・ミドラー主演の映画「ローズ」が

日本で公開されたのは

翌1980年11月のことだった。

ひどく寒い日、新宿の映画館に

一人で観に行った覚えがある。

 

物語の舞台は遡ること10年前。

1969年のアメリカ。

ベトナム戦争、ヒッピームーブメント、

ドラッグ、セックス、ロックンロールの時代。

 

ローズのモデルはジャニス・ジョプリン。

いまだに史上最高の女性ロック歌手として崇められるが、

死後10年のこの頃、そのカリスマ性はハンパなかった。

 

映画は当初、彼女の生涯をドラマ化するという企画だったが、

主演をオファーされたベット・ミドラーはこれを拒否。

「わたしは私の役をやりたい」

こうして愛と激情に生きる架空のロックシンガー

「ローズ」が生まれた。

 

しかし、ミドラーの熱演・熱唱にも関わらず、

ドラマの展開、ローズのキャクターにはどうしても

ジャニス・ジョプリンの幻影が覆いかぶさる。

 

劇中で歌われるブルースナンバー

「男が女を愛する時」も、「ステイ・ウィズ・ミー」も

本当に素晴らしいのだが、

かのレジェンドが生きて歌っていたら、

もっと胸を揺さぶるだろうと夢想してしまう。

当時、それほどまでに

ジャニス・ジョプリンの存在感は絶大だった。

 

けれども物語の最後にそれが覆る。

故郷でのライブステージ。

酒と麻薬でボロボロになっていたローズは、

満員の観衆の前で倒れ、命尽きる。

そうして画面が闇に包まれていくとともに

エンドロールをバックにこの曲が流れる。

 

その時、ローズ(ミドラー)は死と引き換えに、

ジョプリンの幻影を拭い去り、永遠の存在となった。

以後40年以上、世界中で歌い継がれ、

聞き継がれてきたこの曲は、

これから後も長い年月にわたって生き続ける。

 

ローズのあまりに激しい、狂気にも思える生き方は、

現代では理解しづらく、共感も呼ばないだろう。

それでも彼女の歌は愛の種となって未来に残る。

 

僕は長年、この美しい旋律を酒の肴にしてきたが、

そろそろこの歌詞をもっと

じっくり味わななくてはいけない齢になったようだ。

もう毎日元気いっぱいというわけにはいかない。

人生に疲れた時にこの歌は本当に心のひだに染みてくる。

 

ローズのように酒も麻薬もやらなくても、

この世の中は十分、

僕たちの頭を狂わせるものに溢れている。

 

どうかあなたの心が痛みや憎しみで

バラバラになりませんように。

どうかこの世界とは何か、この自分とは何か、

 

つかめるところまで歩いて行けますように。