「適切に冷房を使い、命を守りましょう」
というアナウンスが今日も聞こえてきた。
本当に暑いので、
そのアナウンスが間違っているとは言わない。
けれども、6月に亡くなった母には
「そんなに暑い、暑いと言ってはいかん」と、
子どもの頃、よく怒られた。
理由は父が真夏のクソ暑いときでも外で働いていたからだ。
仕事だから休むわけにはいかない。
「お父さんがこの暑い中、家族のために働いているのに、
おまえはなんだ」というわけである。
そう言われるとグウの音も出なくて、
黙ってひたすら扇風機の風に当たっていた。
そして、扇風機に向かって
「ワレワレハウチュウジンダ」と言って遊んでた。
父は瓦のふせ替えの仕事をしていたので屋根に上る。
屋根の上は遮るもののない光の世界——
360度の直射日光ワールド。
太陽がまともにジリジリ照り付け、
とてつもない暑さであることを
学生時代に手伝って実感した。
特に反抗的だったわけでもないが、
以来、(口に出しては言わなかったが)
父を尊敬するようになった。
自分をたしなめた母のことも。
「尊敬」とか「感謝」はオーバーだけど、
両親のそういうところはとてもいいなと
今でも思っている。
昭和の、まだ一般家庭にエアコンなど普及していない、
日本がうすら貧乏だった時代の、
今ならうっとうしい根性論・精神論である。
じつは僕も人からそういう根性論・精神論を
説かれるのは大嫌いなのだが、
その一方で両親からの教え
(という大げさなものではないけど)が身に沁みている。
だから炎天下、外で働いている人たちを見ると、
いつも頭が下がる思いがする。
涼しい部屋でパソコンやっている自分に
かすかな罪悪感さえ覚えたりする。
そして、当たり前のことだけど、
猛暑だろうが酷暑だろうが、
こうして汗水たらして働いている人たちがいるからこそ
日本の社会は、経済は回っている。
誰が何と言おうと、それだけは忘れてはいけない。
熱中症で倒れたりしませんように、
今日も無事仕事を終えて、
冷たいビールでプハーッとできますように。
と心の中で手を合わせる。
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