1970年リリース。
アルバム「ディープ・パープル・イン・ロック」の挿入歌。
今年発売50周年を迎えた名盤
「ライブ・イン・ジャパン」(1972年)においても
ハイライトナンバーだった。
ディープ・パープルは僕にとって、
ほぼ初めてのロック体験だった。
もちろん、その前にもビートルズの曲などは
聴いていたのだが、
当時のロック小僧たちの感覚では
ビートルズはロックではなく、ポップスの範疇であり、
女・子供が聴くものとされていた。
酒やタバコをやらないのは男じゃない。
それと同じでロックを聴かなきゃ男じゃない。
1970年代前半、まだ昭和40年代の
日本の地方都市の中学生の間では、
そんなめちゃくちゃな理屈がまかり取っていた。
そんなわけで僕は先輩の家で
神聖なる教示を受けるかのように
ディープ・パープルのレコードを何枚も聴かされた。
正直、最初は「なんじゃこのうるさい音楽は!」と思った。
しかし、まさしく酒やタバコと同じで
何度か聴くうちに大好きになった。
見事な洗脳である。
1枚目のアルバム「ハッシュ」から
ギターのリッチー・ブラックモアが抜けて
トミー・ボーリンに替わった
11枚目の「カム・テイスト・ザ・バンド」まで全部聴いた。
それほど好きだったディープ・パープル、
そして日本のロックファンの間でも
圧倒的な人気を誇ったディープ・パープルだが、
20歳を超える頃にはもうあまり聴かなくなり、
その後も最近までほとんど聴いてなかった。
同じ60~70年代のハードロック(ヘヴィメタ)でも、
レッド・ツェッペリンが若い世代にも聴き継がれて、
ますます名声を高めているのとは対照的に、
ここ10年ほどの間に、
ディープ・パープルの影は
ずいぶん薄くなったように感じる。
ロック史に残る大名盤、ライブアルバムの金字塔
とまで言われてきた「ライブ・イン・ジャパン」さえ、
その地位を落としつつあるのではないだろうか。
「ハイウェイスター」「スモーク・オン・ザ・ウォーター」
「ブラックナイト」などは、相変わらず名曲として
若いロッカーたちに演奏されているのだろうが、
今聴いて面白いかと言えば、そうでもない。
ただ、「チャイルド・イン・タイム」は別格だ。
第2期-ディープ・パープル黄金時代とされる
5人による演奏。
この時期のパープルナンバーの多くは、
ジョン・ロードのキーボードと
リッチー・ブラックモアのギターのせめぎ合いが
メインの聴きどころだが、
この曲では、イアン・ギランのヴォーカルのすごさが
際立っている。
ディープ・パープルの歌は
あまり中身のない歌詞が多く、
それが飽きられたり、
後年の評価がイマイチな要因になっているが、
この曲だけはやたら文学的だ。
♪愛しい子よ いつかお前にも見えてくるはずだ
何がよくて何が悪いのかの境界線が
見ろ 盲人の男が世界に向けて発砲する
銃弾が飛び交い 犠牲者が続出する
まるで現在のロシア・ウクライナ戦争を重ね合わせても
何ら違和感のない内容だ。
ここで歌われる「スイート・チャイルド」は、
兵士として戦場に立つ少年・若者を表している。
時代的に背景にベトナム戦争や
東西冷戦構造があったからだろう。
この時代のロックは、表立った反戦歌でなくても、
こうした戦争に抗う精神、世界の危機を憂える気持ち、
怒りや悲しみがモチーフになっているものが少なくない。
イアン・ギランもバンドを抜け、ソロになってからも
ずっとこの歌を大事に歌ってきた。
おそらく彼にとってはシンガーとして
最も誇りに出来る曲の一つだったのだろう。
終わったと思っていた冷戦・核戦争の危機は、
ただちょっとお休みしていただけで
ふたたびその姿を露わにした。
時代は巡るということか。
ディープ・パープルの黄金時代は懐かしいけど、
もうあの時代に戻りたいとは思わない。
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