4月のある雨の朝に100パーセントの川岸から 小舟を漕ぎ出すことについて

 

今年はまだ「4月のある晴れた朝に

100パーセントの女の子に出会うことについて」を

まだ読んでいなかったので、昨日読んだ。

 

悲しい話ではあるのだけど、

これは平和でお天気の良い世界のお話だ。

 

ロシア・ウクライナ戦争があったこと、

そして雨が多かったこと

(4月に台風接近なんて生れて初めて聞いた)で、

どうもあまり読む気分にならなかった。

 

いつもこの短い物語からさまざまな寓意を感じとるのだが、

今年はなぜか「4月の雨の朝」のことを

書いてみたいと思った。

 

七日七晩降り続ける雨。

野山の景色が白く煙り、川の水が溢れる中、

彼と彼女は筏のような小さな舟を浮かべて

草花が萌え始めた川岸から漕ぎ出していく。

 

二人はおそらく100パーセントの世界から

旅立とうとしているのかもしれない。

勇気ある旅立ちなのか、愚かな逃亡なのか。

そして、いずれ二人はバラバラになるのかもしれない。

先のことは何もわからない。

 

そんなイメージの断片だけが思い浮かんだ。

ひらひらと舞い降りてきた桜の花びらのような

僕にとっての贈り物かも知れない。

 

村上春樹がまだ若い頃に書いた

この短編は「贈り物」の物語である。

 

人は皆、生まれながらに自分だけの特別な贈り物を

もらっているのだが、

ほとんどの人は気が付かないか、

それは本物の贈り物ではないのでは・・・と疑いを抱く。

 

そうして別の何か、

自分にとってはさほど大切でもないものばかり

探しているうちに年月が流れ、

もともと手にしていた贈り物を失ってしまうのだ。

 

人生はそれを取り戻すためのストーリー。

自分にとっての「成功」は

他人が吹聴する成功とは違う。

これはそんなことを教えてくれる寓話なのだと思う。