気が弱いので、オンナ同士の諍いは大の苦手である。
それを避けるためなら(死ねと言われるには嫌だけど)、
たいてい何でもする。
カミさんと義母と3人で暮らすようになって
間もなく3年。
この二人は時々ぶつかる。
他の生物の世界では、
自分の遺伝子と酷似する他の個体、
つまり子どもが大人になって巣立ったら、
親子が同じ場所で暮らすことは少ないが、
人間は別。
特に日本人は「家族・親子は仲が良くて当然」
みたいな幻想にいまだに囚われているので、
いろいろやっかいだ。
義母は昭和10(1935)年生まれだが、
このあたりの戦前・戦中に生まれ育った人たちは
当時の男尊女卑思想が体に染みついている。
これは認知症になろうが変わらない。
したがって義母は男=僕には優しいし気を遣うが、
女=娘であるカミさんには上から目線で
けっこう厳しい言動をとる。
カミさんもムカッとしてやり返すから
ときどき険悪なムードになる。
それを察すると、僕は仕事の途中だろうが何だろうが、
さっとニコニコ仮面をかぶって
「ありゃありゃ、どうしたの~」と
とりなしに入る。
時として非常に疲れる。
そして、これはいつか昔に経験したことだと悟る。
そうだ、遺伝子は違うが、
母と祖母(父の母)も同じだった。
もちろん子どもの頃の話である。
母はヒステリックにばあさんへの愚痴をこぼすし、
ばあさんはばあさんで、悪口とまでは言わないけど、
母への不満をこぼす。
そして「お母さんには内緒だよ」と耳打ちして
そっと僕におやつとか小遣いとかを渡す。
愛情でもあるが、味方になれよという賄賂でもある。
断れるはずがないのでもらっちゃって
内心ニンマリしちゃうんだけど、
母の顔を見ると罪悪感に苛まれる。
妻に不倫がバレないよう隠している夫のような心境だ。
妹はあまりそういうことがなかったらしいので、
これはやっぱり自分が男だからなんだろうなーと思う。
その母は今、施設に入っていて、
今日電話したら、にこやかに
「元気だよ」「心配いらないよ」
「ごはんもちゃんと食べてるよ」としか言わない。
スタッフの人からあんまり調子よくないと聞いて
知ってるけど、
「いやいや、そうじゃないでしょ」とは言えないので、
笑って聴いている。
いろいろな感情が湧き出る。
身内に限らず、できれば、すべからく女性には
いつも、いつまでも幸福であってほしいと願う。
願っているだけで何もできない男だが。
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