リンゼイ・ケンプのダンスの記憶

 

道化師の画像を見ていて、

リンゼイ・ケンプのことを思い出した。

 

ケンプは英国のダンサーであり、パントマイマーである。

俳優として映画に出演したことも何度かあったが、

基本的は舞台が命の人で、

自分のカンパニーを持ち、ダンス、パントマイム、

演劇を融合させたような舞台を作っていた。

 

音楽好きな人にはデビッド・ボウイやケイト・ブッシュの

ダンス、パントマイムの先生として

その名を聞いたことがあるだろう。

 

「ジギースターダスト」時代のボウイ、

デビューした頃のブッシュのライブパフォーマンスには

ケンプの影響が強く表れている。

 

僕も1985~87年、ロンドンに在住していた期間、

何度かケンプの公演を見に行った。

「フラワーズ」という舞台が特に印象に残っている。

 

彼のステージは、高貴なクラシックアートと

サーカスやバーレスクのような、

下卑た猥雑な「見世物」のエッセンス、

さらに1970~80年代のポップカルチャーなどが

絶妙にブレンドされた、

神と人間の間を行き来するような、魅惑的な世界だった。

 

日本のカルチャーにも造詣が深く、

能や歌舞伎の要素も取り入れていた。

今世紀になってからも何度か来日公演を行い、

若い頃と変わらない元気さを見せていた。

いったいいつまで踊り続けるのだろうと思っていた。

 

そんな彼が2018年に亡くなっていたことを知ったのは

昨年のことだ。

ネット上でケイト・ブッシュの追悼コメントを読んだ。

80歳。直前まで次回のステージの準備をしていたようだ。

踊りながら倒れたのかもしれない。

「死ぬときも前のめりで死ね」という

セリフを思いだしたが、

生涯ダンサーとしては理想的な最期だったのかもしれない。

 

拙作「ピノキオボーイのダンス」(Kindle電子書籍)

に登場する老ダンサーは、ケンプをイメージして書いた。

https://www.amazon.co.jp/dp/B08F1ZFLQ6

 

彼は廃棄物となったロボット少年を救い、

彼に踊ることを教える。

老ダンサーの魂は、ロボットダンサーの体を借りて

未来を生きる。

 

彼のパフォーマンスの映像・音声データが豊富にあれば、

何十年か先、そんなことが実現するかもしれない。

僕たちはそういう時代を生き始めている。