僕が初めてモスクワ空港に降りたのは、
1985年8月5日だった。
(1,2日ズレているかもしれない)
アエロフロートの旅客機で
ロンドンへ向かっていたのだが、
そのトランジットのためだった。
ロシアがまだソ連だった時代のことである。
空港内は節電していたのか、
半分くらいしか電灯がついていなくて
薄暗かった。
そして空港職員ではなく、銃を持った兵士が
トランジットの客に対して
「さっさと歩け」と言わんばかりに誘導していた。
ちょっと不愉快な顔をしたら銃口を向けられた。
もちろん本気じゃないのでそんなに怖くはなかったが、
あのイヤーな感触は今でもよく憶えている。
今のところ、人生で銃口を向けられたことは、
あれ一度きりだ。
その兵士は女だった。
その当時の僕よりいくつか年上に見えたから、
20代後半から30くらいだったのだと思う。
それからしばらくしてゴルバチョフが出現し、
ソ連は解体に向かった。
1987年のクリスマスのちょっと前、
ロンドンから日本に帰る時もアエロフロートで、
やっぱりモスクワでトランジットしたのだが、
その時は空港の雰囲気はずいぶん明るくなっていて驚いた。
もちろん、銃を持った兵士は一人もいなかった。
もう35年前のことだ。
日本で報道されるのは、ウクライナのことばかりで
ロシアのことはよくわからない。
ウクライナの兵士はとても人間的だ。
何といっても、彼らには
「攻撃され、侵略されているのだから国を守る」
「愛する人たちを守るために戦う」
という大義がある。
対してロシアの兵士はどうなのか?
プーチン大統領をはじめとする上層階級の人たちにはある。
「偉大なるロシア帝国の復活」
「ソ連崩壊以来、30年以上にわたる屈辱の歴史を
塗り替える」
最初はプーチンの独裁政治かと思っていたが、
おそらくロシアの知識人とか、貴族階級みたいな人たちは、
戦争に賛成してプーチンの後押しをしているのだと思う。
世界最高峰の音楽や文学や芸術を愛する人たちが、
現在の世界地図を、
1世紀前の広大なロシア帝国が広がる地図に
書き変えることを待望している。
ウクライナの戦地で戦う兵士たちは、
そんな彼らの命令を受けて戦う。
洗脳されているのか?
いったい何をモチベーションに戦っているのか?
仕事だからしかたなくか?
カネのためか? 死ぬかもしれないのに?
こんな21世紀の情報社会になっても、
彼らの声を聞くことはできない。
37年前と同じように。
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