私立探偵・健太のこと

「茶トラのネコマタと金の林檎」は私立探偵が

高齢女性から山の中に埋蔵された

金の林檎の捜索を頼まれる、という話だ。

 

この物語の主人公である探偵の健太は、

親に虐待され、棄てられた子どもで、

施設で育ったのち、

高校を出てから紆余曲折を経て

探偵事務所を開いたという経歴を持つ。

 

事務所といっても、自分のホームページを開き、

6畳一間のアパートで、

パソコンと携帯電話を使って仕事しているだけ。

それでも立派な独立事業者だ。

 

本筋とは関係ないのだが、

この健太が、自分の育った施設の所長に呼ばれ、

社会で独立して活躍する成功者として、

施設の子どもたちに講演してくれと頼まれる。

彼は最初拒むが、

しぶしぶその依頼を引き受けるというエピソードがある。

 

自分でもなんでそんな設定、

そんなシーンを書いたのかわからないが、

手前みそながら、そんな健太のことが結構好きで、

友だちのように思っている。

 

多分これを書いていた前後に、

こうした施設をめぐる悪いニュースを聞いたのだろう。

実際には健太のようなやつには逢ったことがないのだけど、

そこにいる不運だった子どもたちに

がんばってほしいという思いがあったのかもしれない。

 

世の中、「成功」の定義はいろいろだ。

オリンピック選手や芸能人やお金を儲けた実業家だけが

成功者ではない。

自分では成功したとか、偉くなったとか思っていなくても、

他人は、あの人イイな、えらいなと

思っていることだってある。

 

それに人生に成功したか、失敗したかなんて

最期まで行ってみないとわからない。

どんな境遇で生きることになったって、

自分を抑え込まず、自信を持って生きよう。