「ハンザキを喰った話」:オオサンショウウオに変態した100歳の発明家をめぐる幻想譚

 

最初は5000字程度のちょっとした民話というか

おとぎ話風の短い物語にする予定だったのだが、

やっているうちに膨らんで5万字超の長編小説に。

 

夏に1週間程度で書いて出そうと思ってたのが、

年末ぎりぎりまでかかってしまった。

やっと最後のチェックが済んでUP。

大みそかに発行できるかな?

 

あらすじ

 

舞台は2000年。20世紀と21世紀の狭間のミレニアムの年。

文福社という小さな出版社の雇われライター・神部良平は、

自費出版の「自分史」の本を書いている。

これは自分の人生を本にしたいという人から話を聞いて、

それを一編の物語のように仕上げる、

いわば代筆業、ゴーストライターだ。

 

今回のクライアントは自称・発明家の堀田史郎という

100歳の老人。

その昔、彼は折りたたみ式の「ちゃぶ台」を発明して

大きな富を得たが、

無二の親友の裏切りに逢い、

その財産をすべて失ったという経歴の持ち主だ。

 

そんな彼が1950(昭和25)年、

人生の半ばで自殺の名所を巡る旅に出て、

出雲大社に向かう途中、島根県のとある山村で歓待を受ける。

そこで当時まだ特別天然記念物に指定されていなかった

ハンザキ(オオサンショウウオ)を食べたという。

そしてその食体験によって

自分は不死身になったというのだ。

 

彼の話を書き綴る神部は、

そんな話は老人の妄想に違いないと疑惑を抱きつつも、

なぜか半分は信じたい気になって、

みずから堀田老人がハンザキを喰ったという村に赴く。

清流が流れるその美しい村では

半世紀前の因習・しきたりは途絶え、

もちろん堀田老人が歓待を受けた時のように

「ハレの日」のお祝いとして

ハンザキを食べていたという記憶さえ失われていた。

しかし、そこで神部は思いがけない体験をする。

それは半分人間、半分ハンザキ(オオサンショウウオ)という怪物との遭遇だった。

こうして堀田老人の語る夢のような話は、

神部の内面でみるみる真実に変貌する。

 

最大の両棲類として古代から地球上で生き続ける

オオサンショウウオの不思議な生命力に

人生を左右されることになった

明治・大正の発明家と、昭和・平成のライターの

怪奇な運命の物語が、

夢と現実のバランスが崩れた世界で紡がれてゆく。