神田沙也加さんの死について

 

神田沙也加さんの死にはショックを受けた。

彼女は親の七光りを利用するどころか、

芸能の世界で、その光が届かない領域を探し回り、

ミュージカルという分野に活路を見出した。

 

僕は2000年代の5,6年間ほど、

演劇情報のテレビ番組の仕事をやっていた。

その中で彼女の出演する舞台作品について、

何本か紹介したことがある。

 

ミュージカルの世界には

宮本亜門氏演出の舞台でデビューしたが、

その後はまるで修行するかの如く、

小さなマイナーな舞台に幾つも取り組んでいた。

 

周囲の風当たりは相当強かったと思う。

何と言っても、両親があれだけのビッグスターなので、

妬み・嫉みを一身に受けていた感がある。

 

批評やダメ出しなどではなく、

どう聞いても悪口・陰口としか思えないことも

いろいろ言われていた。

 

彼女はいつも「松田聖子の娘」という、

一生逃げられない運命と闘い、

自分とは何者なのか?を追求していたのだと思う。

 

「アナ雪」のアナ役は、その闘いの大きな成果だった。

神田沙也加があの大スターの娘ではない、

ひとりの独立したミュージカル女優であることを

世間に認めさせることができた。

彼女のアナは本当に魅力的だった。

 

自死ということになっているようだ。

あれだけ打ち込んでいたミュージカル。

その名作「マイ・フェアレディ」の主役をやっていた。

その後も数年先まで出演作が決まっていた。

紛れもないミュージカル界の星だったはず。

好きな仕事、誇りになる仕事を責任を持ってやっていた。

 

札幌のホテルの部屋で、突然、ぽっかり空いた

エアポケットに落ちてしまったのか?

少なくとも転落した時は、

まともな精神状態だったとは思えない。

 

彼女の中に何が起こり、

どうして自ら命を絶ったのかは、

遺書でも見つからない限り、わからない。

「お疲れ様でした」と言うにはあまりに若すぎた。

ご冥福をお祈りしますとしか言えない。