高齢社会において「ノスタルジー」は巨大市場である。
だからこういう本は一定の需要があるに違いない。
昨年末にグラフィック社から発行された
「失われゆく仕事の図鑑」が面白い。
著者は永井良和、高野光平ほか、全部で8人。
年齢は平均すると僕とほぼ同じか、ちょっと若いくらい。
丁寧によく調べてある上に、
写真もたくさん載っている。
文章はそれぞれの実体験も書き込まれていて、
単なる解説でなく、エッセイ風に読めて面白い。
僕にとって、この本に載っている仕事の世界は、
かつてのアングラ演劇や
ATGみたいなマイナーな日本映画の世界とつながっている。
汲み取り屋、バスガール、流し、押し売り、活動弁士、
傷痍軍人、花売り娘、見世物小屋、三助、ダフ屋、
売血、キャバレーのホステス・・
僕が社会に出た頃――昭和の最後の10年間には、
もうこうした仕事はどんどんなくなりつつあって、
多くは、演劇や映画で教えてもらった。
舞台やスクリーンの中には、
こうした得体の知れない人間がうようよいた。
僕が10代から20代の頃、今から40~50年くらい前まで
人も機械も、きれいで清潔で正義といえない、
時にインチキで、まがまがしいことをやりながら
一生懸命生きていた。
そうしたことがひしひしと伝わってきて、
人間が愛おしくなる。
そして人間にとって仕事は何なのだろう?
これから先、人間にとって仕事は
どんな意味を持つようになるんだろう?
と改めて考える。
生きがい? きれいごとだ。
カネだけ? かもしれないけど、だとしたらさびしい。
僕もノスタルジー市場の一員になってしまっているが、
できたら若い衆にも読んでほしい。面白いよ。
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