週末の懐メロ49:永遠の調べ/キャメル

 

今週は美しい月に心奪われた。

そこで“ロック界のアンデルセン”こと、

イギリスのプログレバンド・キャメルの

1976年リリースの名盤

「ムーンマッドネス:月夜の幻想曲(ファンタジア)」から

メインナンバー「永遠(とわ)の調べ」をご紹介。

 

フルートの音色が形づくる、やさしく神秘的な前半部と、

リズミカルな高揚感に溢れたクライマックスとの

コントラストが美しい、This is Camelと呼ぶのに

ふさわしい名曲だ。

 

二人のムーンチャイルドが肩を寄せ合って月を見つめる。

絵本のようなアルバムジャケットも好きだった。

この絵がキャメルの音楽全般のイメージを

端的に描き出している。

 

叙情と幻想、寓話・神話のイメージは、

プログレッシブロックの大きな特徴の一つだが、

キャメルの音楽は、

それらをとても親しみやすい形で表現しており、

誰にも聴きやすく、

それでいて刺激的なサウンドになっている。

 

フルートの演奏が入るのもプログレならではだが、

キャメルもこの曲をはじめ、随所でフルートを使い、

彼らの世界観を印象付けていた。

 

絶頂期はこのアルバムを出した70年代後半だが、

この頃の映像はあまり残っていない。

 

80年代以降、長きにわたってバンドを存続させてきた

唯一のオリジナルメンバー、

ギタリストのアンディ・ラティマーが

こんなふうにフルートを奏でる姿を見たのは、

この2018年のライブが初めてだ。

 

長髪とサングラスがトレードマークだったラティマーも

すっかりじいさんになってしまったが、

演奏力と音楽の感性は衰えていない。

 

そして何より自分たちの創り上げた楽曲に

変わらぬ愛情を注いで、

とても大切にしていることが伝わってくる。

 

70年代の遺産で食っている

ーーといった悪口も聞こえてくるが、

それから50年近くたってもこれだけ元気で

ライブができるのは、

演奏者にとっても聴衆にとっても幸福なことだ。

 

キャメルの弱点はヴォーカルだった。

 

イエスのジョン・アンダーソン、

ジェネシスのピーター・ガブリエル、

ELPのグレッグ・レイク

キング・クリムゾンのジョン・ウェットンといった

プログレ特有の、華のある、

個性的でエキセントリックな

リードヴォーカリストが不在だった。

 

そのため、ラティマ―はじめ、各楽器の奏者が

掛け持ち・交替で、ヴォーカルをやっていた。

そこが他のバンドに比べて、

いま一つ評価の低い要因かも知れない。

 

けれどもそれはキャメルらしさでもある。

 

もともとインストゥルメンタル中心のバンドで、

「白雁(スノーグース)」という

児童文学のストーリーを組曲化したアルバムなどは、

一切ヴォーカルなし・全編インストのみだったが、

それでも十分聴きごたえがあった。

 

この「ムーンマッドネス」のアルバムでも

「転移」「月の海(ルナ・シー)」といった

フュージョンっぽいインストの名曲が入っている。

 

テクニシャンぞろいのキャメルのインストナンバーは

耳に心地よく響き、仕事中のBGMにも適しているのだ。

 

それを考えると、プログレバンドの中でも

最近いちばん長時間聴いているのはキャメルかも知れない。

 

“ロック界のアンデルセン”とは

僕が勝手につけたキャッチフレーズだが、

キャメルの楽曲は、アンデルセン童話のごとく、

新しい世代のリスナーを獲得しながら、

長く愛され続けるのではないかと思う。

 

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●余命9ヵ月のピアニスト

●ローリング・ストーンズと新選組の相似点について

●キング・クリムゾンの伝説と21世紀版「風に語りて」

●プログレッシヴ・ロックスターの死①:ジョン・ウエットンの訃報、そしてロンドンの寿司

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