白石和彌監督の映画を立て続けに3本観た。
「凶悪」「孤狼の血」「凪待ち」
どれもめちゃ面白い。
面白いが、人間やってるのが怖くなるような映画だ。
いちばん凄いのは「凶悪」で、
実際にあった連続殺人事件を題材に作られた。
本当にこんなひどい奴らがいたのかと思わせる、
本当にひどい内容・ひどい事件である。
「孤狼の血」も凄まじい暴力描写があるヤクザ映画だが、
役所広司・松坂桃季といったスターが主演しているのと、
昭和ヤクザの世界を舞台にしている分、
現代の日常からやや離れたものとして見えるので、
少し安心して観ていられる。
「凶悪」の怖さはやっぱりリアルなドキュメンタリーっぽいところか。
狂気のような人殺しをした連中が
時間と場所によって、ごく自然にスイッチを切り替えて
普通の人間に戻ってしまう。
まったく平和な日常生活そのままに
飯を食ったり、子どもに対しては
やさしい父親になってしまう。
頭からケツまで冷血非道な人間かと思いきや、
妙にあったかかったり、
可愛いところ・愛すべきところがあったりもする。
仕事術や勉強術を伝授するような本の中で
よく「なんでも習慣化すれば身に着く」
といったことを説いているが、
あれとまったく同じで、
人間、慣れれば人殺しも死体遺棄も普通に出来てしまう。
それで心が揺らぐこともない。
そんなのは特殊な人間だろ、と思うかもしれないが、
僕らだってきっとそうなれる。
それもわりと簡単に。
人殺しとかするやつは、
頭からケツまで冷血非道な人間かと思いきや、
妙にあったかかったり、
可愛いところ・愛すべきところがあったりもするのだ。
だから誰の心の中にも、こいつらと同じ「凶悪」がある、
じつはいい人も悪い人も、ほとんど違いなどなくて、
光の部分と闇の部分が交互に現れるだけ。
たまたま人生のどこかのタイミングで、
闇の部分がぱーっと広がると、
アッと言う間に人間丸ごとそれに支配されてしまう。
「凶悪」でおそるべき殺人首謀者だった
リリー・フランキーが、
「凪待ち」では、おそるべき“いい人”になるが、
彼がそれを証明しているかのようだ。
しかし、リリー・フランキー、
改めてすごい俳優だなと思う。
見た目軽くて、全然すごそうでないところがすごい。
さらに言うと、これらの作品の登場人物の特徴は、
およそ論理とはかけ離れた、不可解な行動をとる。
不条理とかシュールといった文学的な表現も
なんだか似合わない、もっと地を這うような感覚のもの。
ひどく奇妙でありながら、やたらとリアリティがあるのだ。
「人間はどうしてこういう行動を取るのか」
も白石映画の面白さの一つになっている。
撮影現場でのひらめきや俳優のアドリブなどが
たくさん含まれていると思うが、
それ以前の脚本の段階で、
こうした人物造型とストーリーを構築できるのが
素晴らしいと思う。
それにしても、映画の中でのたうち回る
犯罪者・ヤクザ・労働者・ギャンブル中毒者・
カネの亡者・借金地獄の人たちを見ていると、
明日、自分もこういう世界に
巻き込まれているんじゃないかと感じて
心底身震いがしてくる。
コメントをお書きください