「どうもお世話になりました。
わたしは家に帰ります」。
夕方、デイサービスから帰ってきて、
さて一服、あともう少しだから
仕事の残りをやるかと思ったてたら、
いきなり義母の「カエル病」が発症した。
やれやれゲロゲロと思うが、あまり抵抗せず、
「そうですか。ではお気をつけて。
そこまでお見送りしますケロ」と言って、
いっしょに表に出る。
しかし、外に出てもどう帰っていいかわらない。
彼女の帰る家は「まぼろしの家」なので当然だ。
ぼくに道を訊くので、じゃあそこまで行きましょうと。
クルマの通らない、いつもの散歩コースである
川沿いの遊歩道まで連れて行く。
すると「ここからならだいたいわかります。
もう遅いのでお帰りなさい」と言われてしまった。
「はい、それでは」と言って別れたフリをしたら、
いつもの散歩コースをスタスタと歩き出す。
体力は後期高齢者と思えないほど満点だ。
僕は探偵のように離れてずっと尾行する。
やがて住宅街に入って行き、
迷子になって焦っているのが背中からわかる。
クルマも来るので、そのへんで
たまたま会ったフリをして声をかけると、
やっと改心してネコやイヌやカルガモらに
声をかけながら家に帰る。
でも義母にとって、こっちは「仮の住まい」でしかない。
子どもの頃の家族(と言っても、とっくにみんな亡くなっている)
がいる「まぼろしの家」こそ、
いつか帰っていく本当の家なのだ。
9月になって急に涼しくなり、
日が暮れるのも速くなったせいか、
「カエル病」の発症頻度が高くなった。
認知症には困ったケロ。
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