テレビのコマーシャルやBGMでよく耳にするこの曲は、
1999年に公開された北野武監督の映画「菊次郎の夏」のテーマ曲。
「遠く離れて暮らすお母さんに会いに行きたい」
「よし、おじさんが連れてってやる」
ちょっとどんくさい感じの少年マサオを、
たけし演じる寅さんみたいなヤクザ男・菊次郎が
小さな旅に連れ出す。
ただそれだけの話なのだが、
ふさけてて笑えて、
かわいくて切なくて、
少年の心と中年男の心が重なり合う。
僕の心の地図の中で最高峰に位置する映画である。
歌詞のないインストゥルメンタル曲だが、
メロディラインの中に映画で描かれる
夏、旅、海、花火、お祭り、無垢で不器用な少年、
アホでこころやさしい大人、笑い、涙。
そして昭和から平成初期にかけての近過去の日本。
そのすべてのエッセンスが盛り込まれている。
まさしく懐メロの中の懐メロだ。
YouTubeにはこの映画と音楽に関する
北野監督のインタビューが投稿されている。
Q「『菊次郎の夏』では、作曲家の久石譲との協力が
いつにもなく強調されており、
そこから尊敬と称賛の意を受け取ることができます。
あなたがた二人がどのように作品を作っていくのか、
より詳しく教えていただけますか?」
監督「いつもは編集したものを見せて、
さあ、これにつけろとぜんぶ任せてたんだけど、
今回だけは、こういったメロディラインでって、
音楽の内容にまでかなり言ったので、
こんなような音楽が出来てくるだろうなって
思って撮っていったので当たったんだろうね」
この曲はたけし監督の想いを
見事に反映した曲でもあるのだと思う。
けれども、近所のどこの馬の骨とも知らぬおっさんが
熱中症も気にすることなく、
ヤバイ場所、うさんくさい場所も含めて
子どもをあちこち連れ回すことはもうできないし、
心を重ね合わせることもできない。
菊次郎や僕たちが体験した「昭和の夏」
「日本ならではの夏」は、
時代が変わり、社会が変わり、環境が変わった今、
洗練され、加工され、
アク抜き処理をされたパッケージ商品のようになっていく。
この先もナチュラルな形で残していくのは、
もう難しいのかもしれない。
その代わりと言っていいのかどうかわからないが、
ジブリ映画などの音楽も手掛ける久石譲は、
いまや現代の日本人の心の原風景を作っているかのようだ。
「日本ならではの夏」を伝えていくためにも
懐メロ映画や懐メロ音楽を愛し続けたい。
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1月21日のルイ16世とマリー・アントワネット
アムステルダムのナシゴレンとコロッケとアンネ・フランク
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