週末の懐メロ42:秘密の花園/松田聖子

 

ミステリアスなランデブーからたおやかに広がっていく

夜の海の情景。

イメージ豊かな旋律が魅惑的な松田聖子1983年のヒット曲。

 

特にファンというわけではないのだが、

なぜか唯一この曲だけは完全にツボにはまってしまった、

 

愛らしい少女と

セクシーなおとなの女性の混じり合った神秘感と、

月や星の光に照らし出された海のファンタジー感が

重なり合う聖子ワールドの頂点、とでも言えばいいのか。

今でも聴くとゾクゾクする。

 

作詞は松本隆、作曲は呉田軽穂。

 

松田聖子のシングルの楽曲は

1981年の「白いパラソル」から

84年の「ハートのイアリング」まで3年間、

松本隆が作詞を一手に引き受けていた。

 

その絡みなのか、松本隆と縁の深いアーティストたちが、

次々と楽曲を提供するようになり、

不滅の聖子ワールドが構築されていく。

 

中でも多いのが財津和夫(チェリーブラッサム、夏の扉、白いパラソル、野ばらのエチュード)と

呉田軽穂(赤いスイートピー、瞳はダイアモンド、渚のバルコニー、小麦色のマーメイド)。

 

呉田軽穂ってだれ?と当時は謎だったが、

後年。松任谷由実(ユーミン)のペンネームと知って納得。

 

彼女は自分の名前を出さず、

純粋に作曲家として他の歌手(特に若手の女性)に

曲を提供する場合に限って、

このペンネームを使っていたようだ。

 

原田知世の「時をかける少女」、

薬師丸ひろ子の「Woman(Wの悲劇)」など

呉田軽穂の作曲。

女優のグレタ・ガルボをもじった名前らしい。

 

実はこの「秘密の花園」は最初、財津和夫作曲の歌だった。

財津バージョンというのは

デモ(試作品)のレベルかと思ってたけど、

つい最近、YouTubeに上がっていたのを聴いたら、

しっかり編曲もされて完成している。

 

正式にリリースされた呉田バージョンに比べて

アップテンポで、ポップで元気で明るい歌になっている。

 

財津和夫はもちろん当時のビッグネーム。

そしてまた当時の聖子人気からすれば、

これでもたぶん№1ヒットになっただろう。

 

しかしプロデューサー氏はじめ、

この時代の聖子プロジェクトのスタッフは妥協しないで

さらなる高みを目指していた。

 

正直、どこかこれまでの歌に似ている。

弾んだ感じはいいかが、歌詞まで軽い感じがする。

もっと新しい聖子ワールドを開きたい・・・・

たぶん、そんな思いに駆られたのだろう。

作りなおしを決断した。

 

作詞の松本隆も乗り出して、

ツアー中の松任谷由実を捕まえた。

時間がないと断る彼女を、

そこを何とかと必死に口説き落とした。

 

ツアーの合間に松任谷から呉田へ頭をスイッチして

かなり短時間で書き上げたらしい。

 

しかし、そこは彼女の才能とキャリアをもってすれば

驚くには当たらない。

30分で傑作が生まれることもあれば、

30年かけても駄作しかできないことがある。

創作の神は愛する者のもとに一瞬のうちに舞い降りる。

 

とにかくそんないわくつきで「秘密の花園」は生まれた。

スタッフの判断は大正解だった。

財津さんにはたいへん申し訳ないが、

この曲に限ってはユーミンの完勝。

 

彼女の紡ぎ出すたおやかで繊細なメロディは

歌詞の奥に秘められた物語を存分に引き出した。

ここまでドラマチックに、ファンタジックに昇華し、

まさしく「秘密の花園」までたどり着けたのは

ユーミンマジック、そして、

編曲の松任谷正隆(ユーミンの旦那)のセンスの

賜物である。

 

僕は長らく「秘密の花園」は夏の歌だと思っていたが、シングルが出たのは1983年1月。真冬である。

 

そう思っていたのは「ユートピア」という

夏と海をテーマにしたアルバムに入っていたからだ。

 

「秘密の花園」「天国のキッス」という

2枚のヒットシングルを収めた「ユートピア」は、

呉田と財津をはじめ、

当時のニューミュージックのトップレベルの

ミュージシャンたちが集結して楽曲を提供した。

 

アルバム曲ならではの名作「マイアミ午前5時」や

「セイシェルの夕陽」などもここから生まれた。

 

アイドルポップスをはるかに超えた、

1980年代のJ-POP(という言葉はまだなかったが)の

金字塔ともいえる名盤だと思う。

 

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ポップミュージックを

こよなく愛した僕らの時代の妄想力

ロックが劇的に進化し、ポップミュージックが世界を覆った時代。僕たちのイマジネーションは 音楽からどれだけの影響を受け、どんな変態を遂げたのか。心の財産となったあの時代の夢と歌を考察する音楽エッセイ集33篇。

もくじ

●アーティストたちの前に扉が開いていた

●21世紀のビートルズ伝説

●藤圭子と宇多田ヒカルの歌う力の遺伝子について

●ローリング・ストーンズと新選組の相似点について

●キング・クリムゾンの伝説と21世紀版「風に語りて」 ほか