中学生の一時期、ジャニス・ジョプリンは憧れの女性だった。
「サマータイム」も「ムーヴオーバー」も大好きだが、
1曲だけ選ぶとしたら、やっぱり世界中に衝撃を与え、
遥か未来の世代にまでその名を知らしめた
1967年、モンタレーポップフェスティバルでの
「ボール・アンド・チェーン」のパフォーマンス。
いま聴いても圧巻の一言だ。
インターネットもホームビデオもない時代、
僕はこの映像をNHKの「ヤングミュージックショー」で観た。
その時、14の小僧にとって、
ジョプリンは世界で最高にかっこいい女だった。
そして僕は彼女がすごく美人で可愛いと思っていた。
ジョプリンの歌に出逢ったのは、ラジオの深夜放送だ。
いまや伝説の「糸居五郎のオールナイトニッポン」。
糸居五郎さんのディスクジョッキーを聴いたのは、
それが最初で最後だったが、強烈に記憶に残っている。
いま思えば、糸居五郎さんは、僕の出逢った
まともに英語をしゃべる初めての日本人だった。
そこでかかったのが、
ジョプリンの「サマータイム」だったのだ。
DJの紹介に続いてトランペットのメロウなイントロが流れ、
最初の1フレーズが耳に入ったときの衝撃は忘れられない。
ジャニス・ジョプリン、「サマータイム」。
しかし僕が彼女のことを知ったとき、
彼女はもうこの世の人ではなかった。
1970年、クスリのやりすぎで、
27歳の若さでジョプリンは死んでしまった。
現代の感覚で言えば、不道徳で愚かな死にざまだ。
けれども「30以上は信じるな」と若い連中が叫び、
カウンターカルチャーをかまして熱くなっていた時代のこと。
ロックに魂を捧げたかのような歌いっぷりを見せた、
その生きざま・死にざまは、一つの理想であり、
彼女の存在は神格化され、神聖な物語のように語り継がれた。
それは半世紀が過ぎた今でも生き続けている。
ジョプリンの人気の高さは、
僕らが若いころからほとんど変わっていないのではないか。
今の若い連中の間でも伝説化されているらしい。
彼女を超える女性ロックシンガーは、もう現れないだろう。
テクニック的にうまい歌手はいくらでもいるが、
それを聴くオーディエンス、リスナーの
耳とマインドがもうすっかり変わってしまった。
「音楽で世界を変えられる」と信じていた若者が大勢いたから、
ジョプリンはあれだけの歌唱ができた。
類まれな音楽の才能と、
それを求めた時代精神との幸福な結婚がそこにあった。
僕は彼女の歌はもちろん好きで、
初めての出逢いから折に触れて聴き続けているが、
それ以上に顔が好きである。
歌っているとき、若い女から年季の入ったおばさん、
ばあさんまで
人生をタイムトラベルするかのような表情の変化。
それと対照的に、音楽雑誌のグラビア写真や、
レコードに付録としてついていたフォットブックの中では、
当時のヒッピー御用達のトンボメガネをかけて、
きょとんとした顔や、ちょっとはにかんだ表情で映っているのが、
とても印象的でかわいいなと思った。
1960年代の思想やら文化やらのベールに覆われて、
自由や社会運動や女性解放の象徴みたいに
扱われることもあったが、
実際の彼女は、そうした思想や政治的こととは無関係の、
ただ純粋に歌うのが大好きな女の子だったのではないかと思う。
YouTubeにアップされた、このモンタレーポップの
「ボール・アンド・チェーン」の最後を見て、
その思いを強くした。
歌い終わり、熱狂的な観客の拍手を浴びて
小躍りしながら舞台袖に引っ込んでいく彼女の後姿は、
まるで6歳児のようだ。
「キャーッ、じょうずに歌えちゃった~!」
なんてセリフが聞こえてきそうな、
かわいくてユーモラスなジャニス・ジョプリンだ。
「いたちのいのち」
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