女のダークサイド

 

しばらくの間、雨続きだったので、久しぶりに義母と川沿いを散歩する。

金木犀も彼岸花も終わり、秋が深まっていくのが感じられる。

依然として蚊が多いのには閉口するが、夕方になっても結構人通りがあり、

子どもや犬の散歩の人たちが大勢歩いていた。

 

認知症の人は子どもとおなじように無邪気に見える。

なので散歩に行くと、

「あら、こんにちは」

「(子どもと親やイヌと飼い主に向かって)かわいいですねぇ」

「また会いましょうね」

などとにこやかに声をかけるので、

たいていの人は胸を開いて笑顔で応じてくれる。

そしてよく顔を合わせる人でも、たぶん、

彼女が認知症だとは夢にも思っていない。

 

多くのイヌは「かわいい」という人間の言葉に

敏感に反応するので、

義母の後をクンクンついてきたする子もいる。

 

とてもとてもいい人に見えるのだろう。

でも本当は100%いい人というわけではない。

 

そうやって一見、社交性があるものの。

じつはそんなに開放的なキャラではないのだ。

 

にこやかにあいさつして通り過ぎた後に、

「あの人、おっかしいわよねぇ」とディスって、

ブラックに笑ったりもする。

 

でも、僕といるときは割と控えめらしいだ。

異性の前ではあまりそういう面は見せないのだ。

 

同性であるカミさんと二人の時はその傾向がかなり顕著だという。

なかなか女はいやらしくて狡猾だ。

 

いくつになろうが、認知症になろうが、

そうした女のダークサイドを失わない義母は

なかなか強かで面白い、魅力的な存在である。

 

しかし、彼女の「かわいい」にイヌはイチコロだが、

ネコには通用しない。

 

ネコは僕のものである。

ねこなきじじい・ねこなでじじいの僕とネコとの戯れを

義母はソーシャルディスタンスを取って、

じっと嫉妬深げな目で眺めるのみである。

 

 

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