森田童子の「ぼくたちの失敗」の歌詞の中に
「ストーブ代わりの電熱器」というのが出てくる。
僕がこの曲から離れられないのは
この電熱器の思い出があるからかも知れない。
高校生の時、演劇部をやっていた。
部室は実習室(工業高校だった)が集まる校舎の
屋上に繋がる踊り場のような不思議な場所にあった。
トイレと隣りあった3畳間くらいの小さな部屋だった。
たぶん以前は物置に使っていたのだろうと思う。
歴代の上演台本や発表会のプログラムなど、
いろんな資料が壁の棚にゴタゴタぶち込まれ、
稽古の時に使うテーブルと椅子がガタガタ放り込まれた
闇鍋みたいな部屋だった。
その闇鍋の中にくだんの「電熱器」があったのだ。
コンセントを入れると
ぐるぐる蚊取り線香みたいに渦を巻いたコイルが、
みるみる発熱して赤くなった。
まさしく“赤く燃えていた”。
1970年代半ばの公立高校のクラブの部室には
エアコンはもちろんのこと、ストーブだってありゃしないので、
冬の間、僕たちはぶるぶる震えながら
その電熱器に手をかざし、ストーブ代わりにして暖まっていた。
セキュリティの厳しい現代では考えられないし、
当時もどうしてそんなことができたのか不思議だが、
2~3度、夏休みや冬休みの夜に
友だちとこっそり校舎に忍び込んで、
その部室の中で煙草を吸っていた。
電熱器をつけると、赤くなったコイルはライター代わりになる。
そんなことを2~3度やった。
ガキの分際で紫の煙をくゆらしながら
友だちや演劇部の仲間と一生懸命何かを話していた。
今となってはいったい何を話していたのか、さっぱり憶えてないが、
妙に楽しくてわくわくしていたことと、
電熱器の温もりだけは忘れられない。
ときどき、こういうちっぽけでくだらない、
本当にどうでもいい思い出が、
自分を温め、支えてくれているのではないかという気がする。
その高校時代――1976年の森田童子のライブ。
ラジオの公開録音だったらしい。
わずか20分余りだけど、ほとんど彼女のベスト7とも言える7曲を歌っている。
4曲目が「ぼくたちの失敗」。
ギター1本の弾き語りで聴けるのは、たぶんこれだけだと思う。
ドラマ「高校教師」の脚本家も彼女の歌が好きで、
テーマ曲だけでなく、セリフやナレーションの中で
歌詞や合間の語りを隠し味的に取り入れている。
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