日本の各地に「若水」という民話がある。
若水とは若返りの水だ。
ある村におじいさんんとおばあさんが住んでいて、
ある日、おじいさんが山のふもとで湧き水を発見して飲む。
すると白髪が黒くなり、肌のしわが取れてつやつやしてきた。
その湧き水は若返りの水だったのだ。
それを見て仰天したおばあさんは自分も若返りたくて、
一緒に若水が湧き出るところに行って、ごくごくと飲む。
すると、やはり同じように髪は黒々、お肌もつやつや。
ふたりして曲がっていた腰もしゃんとして、
これでまた元気に働けると喜んでいたが、
おばあさんは欲が出てしまった。
おじいさんに隠れて、こっそりと毎日、若水を飲みに行く。
どんどん若返り、まるで若い娘のようになってしまう。
それでおじいさんはこれでまた若い女を抱けると大喜び――
というのは僕の勝手な創作で、
原作では、もうそれ以上、若水を飲むのはやめろと言う。
元おばあさんは一応、おじいさんのいうことを聞くが、
一度火が付いた欲望はもう止められず、またもや若水のところへ。
その日、おばあさんは家に帰ってこない。
おじいさんはもしやと思って若水のところに行くと、
木々の合間から赤ん坊の泣き声がする。
あわてて駆け寄ってみると、
水を飲み過ぎたおばあさんは、
かわいい赤ちゃんに還ってしまっていた。
おじいさんはやむをえず、
おばあさんだった赤ちゃんを家に連れて帰り、
自分で育てることにする。
「若返りたい」という欲望、不老不死の欲望は、
もちろん男にもあるが、情熱と言うか執着心は、
やはり女のほうが何倍も強い。
それはたぶん、
女は自分の身体の変化を顕著に体験するからだろう。
子どもを産まない体から、産める体になり、
やがてもう産めない身体に変化するというのは、
どんなに身近にいても、男にはとうていわからない神秘だ。
現代は閉経以降も女性に活躍の場がたくさん用意されているので、
精神的にそうこたえないかもしれない。
しかし、人間も自然の摂理に従って生きていた近代以前は、
かなりリアルに自分の衰え、存在の危うさを
感じざるを得なかっただろう。
そういうところからこんな話が生まれてきたのではないかと思う。
若返っていくというのは自然の摂理に反することだから、
一種の恐怖であり、老いること以上に残酷であり、
したがってこの若水の話はホラーでもある。
このおばあさんは不思議な体験をし、平常心を失い、
欲にかられて若返ること自体が目的となってしまった
愚かな女である。
何のために若返るのか?
若返って自分は何をしたいのかよく考えよ。
そう言うのは正論だが、こうした愚かで弱いところが
人間らしいと言えば人間らしくて、すこぶる可愛い。
ぼくがこのおじいさんだったら、
若い娘も飛び越して、赤ちゃんに還ってしまった妻を
育てようとするだろうか?
あなたはどうですか?
●おりべまこと電子書籍 Amazon kidleより販売中
おとなも楽しい少年少女小説
・ピノキオボーイのダンス ¥500 ASIN: B08F1ZFLQ6
・オナラよ永遠に ¥593 ASIN: B085BZF8VZ
・茶トラのネコマタと金の林檎 ¥329 ASIN: B084HJW6PG
・魚のいない水族館 ¥328 ASIN: B08473JL9F
面白まじめなエッセイ集
・どうして僕はロボットじゃないんだろう? ¥318 ASIN: B08GPBNXSF
・神ってるナマケモノ ¥321 ASIN: B08BJRT873
・子ども時間の深呼吸 ¥324 ASIN: B0881V8QW2
・ロンドンのハムカツ ¥326 ASIN: B086T349V1
●アクセス
https://www.amazon.co.jp/ からコードナンバー、
または「おりべまこと」、または書籍名を入れてアクセス。
●スマホやタブレットで読める:Kindle無料アプリ
https://www.amazon.co.jp/gp/digital/fiona/kcp-landing-page
●Kindle unlimited 1ヶ月¥980で読み放題
https://www.amazon.co.jp/kindle-dbs/hz/subscribe/ku?shoppingPortalEnabled=true&shoppingPortalEnabled=true
コメントをお書きください