義母がいつも散歩で楽しみにしているのは、
カモ、イヌ、子どもである。
ネコはどっちかというと僕の楽しみだ。
善福寺川で涼しそうに泳いでいるカルガモは25羽にもおよぶ。
日によってはコサギ(白い鷺)、カワウ(黒い鵜)、
アオサギ(大型のグレーの鷺)なども混じっている。
こいつらが水に頭を突っ込んだり、バシャバシャやっている風景が
平和で楽しげみたいなのだ。
イヌと子どもはリアクションがあるので面白いみたいだ。
彼女は臆病なので、じつはイヌはけっこう怖がる。
ソーシャルディスタンスを取って遠目で見るならいいが、
特にラブラドールなどの大型犬が近くに来るのは怖いらしい。
だけど、つい「かわいいねえ」などと言ってしまう。
散歩しているイヌの7割くらいは、
この「かわいい」という言葉がわかるので、
それを聞きつけて「はいはい、かわいがって」と
義母のもとに寄って来るのだ。
その時の彼女のちょっと緊張した顔がけっこう面白い。
その点、人間の子どもは安心だ。
特に1~3歳くらいのおチビさんはにっこり反応して
手を振ってくれたりする子が多い。
そうした義母と子どもとのやりとりを傍で見ていると、
僕は内心「今日はざしきわらしに逢えた」と思う。
子どもの姿をしたざしきわらしという妖怪に逢うと、
幸運になると言われる。
昔はせっかくこの世にオギャーと生まれてきても、
大きく育つ前に死んでしまう子どもが多かった。
特に東北地方の貧しい農村などでは
病気や事故はもとより、
家族が食っていくために間引きされることも
少なくなかった。
なので小さい子どものイメージは
現代とはずいぶん違っていたのだろう。
「7歳までは神のうち」などとも言われるが、
“将来、人間として生きるかもしれない”
精霊に近い存在だったのではないかと思う。
たぶん、ざしきわらしの伝説は、
そうした幼くして逝ってしまった
子どもたちのことを偲んで生まれたものなのだろう。
いずれにしても、散歩でざしきわらしに逢えると
義母の中に幸福のタネが一つ植わる。
家に帰るころにはもう忘れているんだけど、それでもいいのだ。
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