父のメガネを借りて終戦を見る

 

お盆。終戦記念日。

とりあえず、父の話の最終回。

 

5月14日の菜穂や大空襲の日、ほんの僅かなすれ違いのお陰で、

戦時を無傷で潜り抜けることの出来た16歳の父。

 

彼がその後、どのような思いで3か月後に終戦を迎えたのか、

そして復興期を過ごしたのかは生前、

殆ど聞くことが出来なかった。

 

今だったら食いついてでも聞き出すのに・・・

と歯噛みする思いだが、後の祭りである。

 

身内から話を聞くのは意外と難しい。

いつまでもあると思うな、親とカネ。

いつでも聞けると思うな、親のものがたり、である。

 

幸い、家族で戦死した者・被災して命を落とした者はいない。

そのせいか、ひどく戦争を憎んでいたわけでもないようだ。

 

終戦は父を大人にした。

当時の16歳は、現代のように「まだ子ども」では済まされない。

若い世代の男が少なくなっていたから、

早く大人にならなくてはならなかった。

 

それに明日の見えない焼け野原の中では、

子ども時代の感傷などに浸っていたら飢え死にしてしまう。

今日の食い扶持を確保し、

とにかく一日一日生き延びなくてはならない。

そんな戦時以上に過酷な季節を迎えた時の思いは

どんなものだったのだろうか。

 

僕が子どもの頃、家の中には

やたら戦争に関する書物や写真集などがあった。

また、テレビで戦記映画などをやっていると

父は熱心に、ときに食い入るように見ていた。

 

おそらく自分の子ども時代をほぼ全編にわたって

覆いつくした戦争という災厄から、

終生離れられなかったのだろう。

 

それは一つの原風景として、

ずっと心の中に宿り続けていたに違いない。

だから、あの戦争についてもっと知りたいという

欲求に駆られるのは当然のことなのかも知れない。

 

父にメガネを借りて終戦の日を見ると、

いつもと違う日本が見えてくる。

 

75年たってすっかり変わったと思っていたこの国も、

根っこのところでは、

ちっとも変わっていないものがたくさんあるように思える。

 

 

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