この作品はもともと20代の終わりの頃に上演した
「林檎探偵談」という戯曲のエピローグ部分を
膨らませてアレンジしたものだ。
もとネタは、実際に探偵稼業をしていた人が書いた
「事件簿」だった。
いろんな事件に携わり、おかしな人間と、
奇妙な体験をしたことを綴っていたが、
中でも面白かったのが、
山の中に財宝が埋蔵されているから掘ってくれという
あるばあさんの話。
そのばあさんの夢というか妄想に付き合った
探偵さんのエピソードをもとに、
3分程度のコントみたいなシーンを挿入してみたのだ。
それが実話なのか、面白おかしい作り話なのかは判然としないが、
認知症の義母の面倒を見ていると、
似たようなことに遭遇することもあるので、
まるっきりでっち上げだとは思えなくなる。
そうした「夢や妄想に付き合う力」は、
非現実的で、何の生産性もないけど、
人間に必要とされる能力の一つではないかな、
とさえ感じている。
どんな人間でも生きていれば、多かれ少なかれ、
いろいろな種類の夢・希望・願望が
自然とうじゃうじゃ湧き出してくる。
それらがすべて叶う人はひとりもいない。
それどころか大多数の人は、
残念ながら、ほとんど叶えられずに終わる。
そんな現実を知ってるのに、
大人は子どもや若者に
「夢を持たなアカン」などと
残酷なことを無責任にぬけぬけと言い放つ。
かなえられなかった夢は心の奥深くに蓄積され、
やがて埋もれて、いつしか「金の林檎」に変わっている。
日々の生活にいっぱいいっぱいだった人たちはみんな、
人生の終わりがけになると、
金の林檎がどこかに埋まっていることに気が付いて
一生懸命掘り返そうとするのだ。
書いてみて、ああ、これはそういう物語だったんだなと、
30年ぶりに再会した古い友だち、
私立探偵の健太と六郎に教えてもらった。
きっとあなたの心の中にも金の林檎が埋まっている。
それを死ぬまでに一度、掘り返してみるかどうかは、
もちろん、あなたの自由です。
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★第2クール「茶トラのネコマタと金の林檎」
日本時間 7月23日(木)16:00~25日(土)15:59
20代半ばで独立起業し、6畳一間のアパートの自分の部屋で探偵事務所を開いた私立探偵・飛田健太(とびた・けんた)。
その健太のもとにホームページ経由で、開業以来、最高のギャラが発生する難事件の依頼が飛び込んだ。
山中に埋められた、時価数億円に上る金の林檎の捜索。
健太は相棒である便利屋の中年男・六郎を連れ、“なんちゃってホームズ”のいでたちで現場に飛ぶ。
そこに現れたのは茶トラのネコみたいなオレンジ色の髪をし、魔女のような真っ黒な服に身を包んだミステリアスな高齢女性。
健太はその依頼人に“茶トラのネコマタ”というあだ名をつける。
ネコマタの目撃談によれば、10月の第3日曜日の夕暮れ時、黒服・黒メガネの4人組の男たちがこの山にやってきて、どこかから盗み出してきた大量の金の林檎を埋めていったという。
しかし、明らかに彼女の話はおかしい。
これはかつて女優だったという女の空想か?幻想か?妄想か?
健太と六郎は、その話を信じたふりをして、山中の雑木林に入ってスコップを振るい、肉体労働に精を出すことになった。
はたしてこの難事件はどんな“解決”に至るのか?
それぞれ心に傷を負った若者、中年、年寄りが織りなす、コミカルでファンタジックな探偵小説。
短編。24,000字。
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