「アホな人間よりも優秀な機械ですよ」とは書かない

 

AIなど高度な技術に手を出す前に、
自社に合ったITツールの運用の仕方を見直しましょう。

 

そんな趣旨で、中小企業向けの
DX(デジタルトランスフォーメーション)の本を書いていたが、初稿からあちこち直しが入り、完成が近づいてきた。

 

コンサルタントの事例とノウハウを紹介するのがメインだが、
本であるからにはストーリーが必要ということで、
僕がその部分を担当した。

 

そのストーリーというのは、一言でいえば、
機械にできる「労働」「作業」はみんな機械にまかせて、
生産性を上げて余裕を作って、
「もっと人間らしい仕事をしましょうよ」ということになる。

 

もうちょっと言えば、
今まで「時間かけて、魂込めてやらなくちゃいかんぞ」
と思っていたところも、べつにタマシイなんぞいらんよ、
IT使って早く、ラクに、手を抜いてできたほうがいいよねーー
というわけ。

 

会議や打ち合わせなど、
その場でリアルに相手と向かい合わなければ、
ちゃんとした話し合いにならない――と言ってた人も、
コロナ禍で「大半はリモートでもOKだな」と考え直した。

セミナーもミーティングも、
リアルでなくては成り立たないというほどのものは
そう多くはないことを実感したはずだ。

 

さて、それはいいとして、
じゃあ「もっと人間らしい仕事って何?」と問われると、
クリエイティブな仕事とか、
そんな返事が返ってくるんだろうけど、
具体的なことはさっぱりわからない。

 

もちろん、僕にもわからない。
だってそれはそれぞれの業種・業態・会社によって
さまざまだから。
自分たちで考えてください、としか言いようがない。

 

考えてみたら、こういうことって、
工業化大量生産時代のフォーディズム、
要するにベルトコンベアの分担作業の頃から
ずっと言われ続けていたことだ。

 

機械を入れれば生産性が上がり、
良いものができ、会社が儲かる。
お客さまは幸せになり、働く人も幸せになる。
みんな幸せになって人間らしい暮らしが送れる。

 

場所が工場か、オフィスか。
仕事が製造・組み立てか、デスクワークか、の違いだけである。

 

と書いてみて、かれこれ30年以上前、
名古屋にある某有名家電メーカーの工場で
3カ月ほどのアルバイトで、

チャップリンしていたことを思い出した。


ちょっとコンベアのスピードが上がると
ついていけなくて、あちこち配置を代えられたことを憶えている。

 

映画「モダンタイムス」が制作されたのは1936年。
もうかれこれ80年以上前になる。
「人間らしい働き方」というのは、
そのころからの普遍的テーマなのだ。

 

20世紀の人たちからしてみれば、
21世紀の僕たちは、工場労働などの多くはロボットにやらせて、
みんなでコンピュータやスマホをいじくり、
いろんな情報を取り込んで、加工して・・・
なんてことをやってて、
実に人間らしい働き方をしているなぁ、と見えるのかも知れない。

 

よく言われているように、機械は人から仕事を奪う。
2015年に野村総研がリリースした
「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に」
という研究報告が社会に与えた衝撃は大きく、
「いずれその日が来る」と
僕たちの潜在意識にインプットされてしまった。

 

これも時代の変化と言ってしまえばそれまでだが、
より安く、より良い製品・サービスを提供するために、
職場により進化したIT技術を導入するのは当然だろう。
そうなれば、会社が抱えきれなくなる人は続出するだろう。
これまで貢献して来ましたと言っても、もう通用しないのだ。

 

「そうした落ちこぼれる人に、
新たな活躍の場を作れないかと考えるのもDXです」
ストーリーはそんな願いを込めて、
ちょっとエモーショナルに結んでみた。

 

現実面ではともかく、本の中で
「アホな人間よりも優秀な機械ですよ」とは書かない、書けない。
僕に限らず、おそらく誰もが。
2020年の今の時点では。

 

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