1Q84の「ネズミを取り出すミケランジェロ」

 

ミケランジェロは大理石の塊の中にダビデを見出し、解放した。
そう伝えられている。


若い時分、なにか美術関係の本で読んだのだが、
そのときは「ふーん」と思っただけだった。
ま、おれ、彫刻やるわけじゃないし、といったところ。

 

しかし最近、この言葉こそ創作の真実を表現し、
人生でやるべき最も重要な事ではないかと思うようになった。

 

彫刻とか芸術作品に限らない。
人はそれぞれ人生をかけてやるべきことを持っている。
それが見つけられるかどうか。
そして見つけたものをわが手で形にして取り出せるかどうか。
それがすべて、と思う。

 

村上春樹の小説「1Q84」の中で
このミケランジェロの逸話と共通する
印象深いエピソードがある。

 

女主人公の青豆に対し、
麻布のお屋敷のマダムの用心棒を務めるタマルが電話で、
自分の子ども時代の仲間について語るシーンだ。

 

タマルは在日コリアンの男で
戦後、樺太から引き上げてきた両親と離れ、
北海道の山奥の孤児院で少年時代を過ごした。

 

そこでひとりの頭の弱い混血児と友だちになり、
彼の面倒を見ることになる。
というか、いじめる連中から彼を守る用心棒になる。

その混血児が「ネズミを取り出すミケランジェロ」だった。

 

以下、BOOK2・第17章「ネズミを取り出す」から引用。

 

木の塊を手に取ってじっと長いあいだ見ていると、
そこにどんなネズミがどんなかっこうで潜んでいるのか、
そいつには見えてくるんだよ。
それが見えてくるまでにはけっこう時間がかかった。
しかしいったんそれが見えたら、あとは彫刻刀をふるって
そのネズミを木の塊の中から取り出すだけだ。
そいつはつまり、木の塊に閉じ込められていた架空のネズミを
解放し続けていたんだ。

 

タマルは村上作品中、最もハードボイルドな登場人物だ。
彼はゲイなので、青豆(彼女もハードボイルドキャラ)とは
友情関係のようなものを感じているらしい。

 

彼は14歳のとき、ひとりで生きる決心をし、孤児院を脱走する。
ミケランジェロのその後は知らないと言いつつも、
記憶は離れないと語る。

 

そいつが脇目もふらずネズミを木の塊から

『取り出している』光景は、
俺の頭の中にまだとても鮮やかに残っていて、
それは俺にとって大事な風景のひとつになっている。
それは俺に何かを教えてくれる。あるいは、何かを教えようとしてくれる。
人が生きていくためにはそういうものが必要なんだ。
言葉ではうまく説明はつかないが意味を持つ風景。
俺たちはその何かにうまく説明をつけるために生きていると思われる節がある。
俺はそう考える。

 

タマルが語った話の意味を青豆は

「私たちの生きるための根拠」と言い表す。
本筋とは関係ない逸話だが、ひどく胸にしみる場面だ。

 

人はそれぞれ無意識の領域では自分がやるべきことを知っている。
タマルの友だちのように他にやるべきことを持たず、
(彼は普通の仕事や社会生活に必要なことがまともにできない、
世間的には「とろいやつ」だ)
最初からただそれしかできないという人間は、
ある意味幸福。ある意味天才なのだろう。

 

僕たち凡人は望むなら
何らかの努力をし、何らかのタイミングで
ダビデなりネズミなりを見つけ出し、取り出さなくてはならない。
もし、それができれば人生の成功と言えるのはずだ。
ただし、世間的成功とイコールではないかも知れないが。

 

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