●世界の一部になる
「コンビニで仕事をすることは、
私にとって世界の一部になること」
そんな主人公のセリフが印象的。
秀逸なタイトルの持つ、
面白おかしく、超現実的で、
ちょっと不穏な雰囲気そのままの物語だ。
そして読み終えた後、切ないような哀しいような、
地下へ降りる巨大なトンネルに一歩二歩、
足を踏み入れたまま、フリーズしてしまったような、
奇妙な気持ちになる物語である。
村田沙耶香の2016年芥川賞作品で、
読もうと思って頭の片隅にメモしておいたが、
あっという間に3年経過していた。
そこでやっと先日、大掃除の合間に読み始めた。
ここのところ目が悪くなり、
すっかり読書スピードが落ちてしまっているが、
これは面白くて、掃除は適当に済ませて、
ほぼ1日で読み切った。
文章のリズムが良く、読みやすい。
●就職・結婚・出産・子育てをスルー
コンビニに勤め続け、
就職も結婚もしていない30代半ばの女性が主人公。
彼女のキャラクター設定が最高だ。
僕も彼女と同じ部分を持っており、
おそらくあなたも持っている。
通常、社会の歯車の一つになる――
という言説は、
ネガティブな意味で使われることがほとんど。
主人公の表現は「世界の一部分になる」と、
やや異なるが、意味としては同じ。
でもその使い方はポジティブで、
世界の一部分になったことに喜びを感じている。
それほど彼女は、周りから浮き上がった
個性的な人間である。
その個性ゆえに生き辛く、
就職・結婚・出産・子育てなど、
この社会で生きる人間のミッションとされることを
スルーしてきてしまった。。
そんな彼女にとって
唯一、心の拠り所なのが、
18歳からアルバイトを始めた
コンビニエンスストアだったのだ。
コンビニの店員として働くことによって、
言い換えると、
コンビニというシステムの一部になることによって、
彼女は自分の存在が世の中から認められていると
実感できるのだ。
●個性的であること、歯車になること、どちらを選ぶか?
いわば、世界は大きなコンビニである。
僕もあなたも誰もかも、その歯車の一つとして、
誰かの生活をより便利に、
より豊かにする機械の部品として日夜働いている。
そう見立てることも可能だろう。
個性的であることが、
やたらと持てはやされる時代、
「歯車なんてやってられるかよ!」
と啖呵を切るのはカッコいいが、
いざ歯車をやめてしまったら、
果たして僕らはまともに生きていけるのだろうか?
世界の一部になる自分と、自分の世界まるごとの自分。
双方を両立させ、」スイッチングができるかどうかが、
幸福な人生の鍵になるのではないか。
そう思わせてくれる小説だ。
●2019コンビニ問題
そういえば、この30年ほどの間、
コンビニは休むことなく働き続けてきたが、
今年は本部の搾取醸造に対するフランチャイズ店=歯車たちの反乱、
慢性的な人員不足など、様々な問題が吹き出した。
あなたの近所のコンビニも、
もしかしたらお正月はお休みかもしれない。
そういえば僕が東京で暮らし始めた頃、
セブンイレブンは自宅から歩いて10分くらいの所にしかなかった上に、
営業時間も文字通り、午前7時から午後11時だった。
それでも深夜や早朝、CM通り「あいててよかった」と、
しみじみ思えた。
そんな時代に戻ってもぃい。
いや、戻らないか。
人間はいなくてもAI・ロボットが相手してくれるから。
コメントをお書きください