●「エリナ・リグビー」の詩
中1の時、国語の時間で自分の好きな詩を選んで書き、
それに自作のイラストを添えて発表するという課題があった。
国語の先生はクラス担任の北原先生と言って、
僕にとっていちばん良い記憶に残っている先生だが、
今考えるとイキな課題を出したものだ。
授業参観の日に教室の後ろに貼り出していた。
僕は確か、高村光太郎の「無口な船長」という詩を書いたのだが、
昨日紹介したビートルズオタクのイナガキくんが選んだのは、
レノン・マッカートニーの「エリナ・リグビー」の詩だった。
イナガキくんは、すべてにおいて“そこそこ”の少年で、
勉強もスポーツも、とびきりできるわけでもなく、
さりとて明るい性格や芸人気質で教室を賑わすわけでもなく、
リーダーシップを発揮して人望を集めるわけでもない、
要するに僕と似たり寄ったりの目だたない生徒だった。
ビートルズオタクだったけど、
僕自身、ビートルズというバンドは知っていたが、
ほとんど意識していなかった。
そもそもその頃(1972年)、「ビートルズはもう古い」と言って
隣のロック好きな先輩はバカにして、ハードロックを聴いていた。
ところがその彼が書いた詩を見て、僕は仰天した。
「ああ、あんなにさみしい人たちは何処へ行くのでしょう?」
大人になりかけた子ども心に、その詩のインパクトはものすごかった。
その時からイナガキくんをちょっと尊敬するようになった。
●衝撃の弦楽四重奏
それから間もなくして、ビートルズを馬鹿にしていた先輩が
「兄貴の友だちから貰ったけど、俺はビートルズなんで聴かんから」
と言って、ビートルズの「オールディーズ」というLPをくれた。
「リボルバー」までのシングル曲を集めた、
いわゆるベストアルバムで、
「シーラブズユー」も「抱きしめたい」も「涙の乗車券」も
入っていたのだが、その頃はあんまりピンと来す、
最高に響いたのが「エリナ・リグビー」だった。
それまで抱いていた「なんだか歌謡曲っぽいロック」という
ビートルズのイメージが、
あの美しくて切ない弦楽四重奏で木端微塵に吹っ飛んだ。
生まれて初めての異次元の音楽体験だった。
そして、あのイナガキくんの詩のインパクト。
初めて「ビートルズってすごいバンドだ」と認識した瞬間だった。
・・・というのがマイビートルズ・ベスト10の
第7位「エリナ・リグビー」のマイストーリー。
●ああ、この孤独な人々
最近、YouTubeで和訳のカバーを聴いて驚いた。
ギター2本とアコーディオンの素朴な編成で
あの美しいメロディを奏でる。
これは素晴らしい!
イナガキくんも聴いているだろうか?
初めて聞いた頃、僕の中でエリナはまだ10代の少女で、
マッケンジー神父も「イマジン」を歌っていた頃の
ジョン・レノンに似た青年だったが、
年月を経た今は、二人とも齢を取った姿で現れる。
なんとなく孤独死や、無力な宗教者を連想させる。
もう半世紀以上も前からビートルズは
現代人の孤独と不安を歌っていた。
信じられるもの、心を寄せられるものが
どんどん消え失せていく時代において、
ますます多くの人の心をつかみ、深化し、
アレンジされて口ずさまれるだろう。
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