先日、レコード屋さんの仕事をやったこともあり、
たまたま近所の映画館でかかっていたので観に行った。
1時間強のドキュメンタリー映画。
ジョー・ハザードはクレイジーなレコードマニア。
先入観念で、いわゆるジャズマニアなのかと思ってたら、
それ以前のルーツ音楽――ブルース、カントリー、
ブルーグラスなどのレコードのコレクターなのだ。
製作年が2003年で、この頃、ジョーは見た感じ、
70歳前後。
今も存命中だとすれば、もう80代後半。
僕の父とそう変わらない齢だ。
ということは昭和ひとけた。
1930年代の生まれらしい。
彼が愛する音楽は、その自分が生まれる前と生まれた頃の
1920年代~30年代、今から1世紀近く前の、
主に黒人音楽だ。
音楽ソフトはもちろんアナログレコード。
それも78回転のSP盤。
僕もこんなの資料館みたいなところでしか見たことがない。
ハードは蓄音機である。
で、このおっさんはオンボロのアメ車を乗り回して、
要らないレコードをはるばる遠くまで出張買取に出かける。
今でいう中古レコード屋みたいなことを
1960年代頃からやっている。
すでにこの頃からSP盤や蓄音機は過去の遺物で、
売りたい人たちは、テレビを買うお金の足しにするために、
モノ好きなレコードコレクターに二束三文で
大量のレコードを売っていた。
取引額は$でなく、¢の世界。
10セントとか20セントだ。
そんなわけでジョーは、
長年溜めこんだ2万5千枚のレコードが棚に並ぶ
音楽のお城で、いつも葉巻を吹かしながら、
リズムに乗せて、5歳児みたいに
足をバタバタ鳴らし、
あげくに私設ラジオ局まで作って、
お気に入りの曲を放送する。
とんでもなお大人子どもだ。
当時の若者音楽であるロックが大嫌いで、
娘が親への反抗の意味もあって買ってきた
ビートルズのレコードも捨ててしまったと言う。
この映画は、そんなおっさんのクレイジーぶりを描くのだが、
なぜ彼がブルーグラスなどの音楽にそこまでハマったのか、
仕事は何をしている(してきた)人なのか、
音楽を聴く以外にどんな暮らしを送っているのかということなど
一切描かれない。
家族も、成人して中年に近くなった娘が
「こんなお父さんだった」ということをコメントするために
2,3ヵ所、短く登場するだけだ。
カメラは、ただひたすら楽しそうに音楽を聴き、
車に乗ってレコードを買い集めるジョーを追うだけで、
特にこれといったドラマも起こらない。
ジョー自身も特にこれといった
音楽に対する主義主張や評論家じみた批評や
マニア然としたうんちくをぶつわけじゃなく、
ひたすら「これがいい」「あれが最高」と言うだけ。
ちなみに彼はロック以前にジャズさえもいい作品は
戦前のもので、大恐慌・2次大戦以降の音楽は
とても聴けないと言う。
まさしく古き良きアメリカンフォークの偏愛者と呼ぶしかない。
結果的に、彼は100年後の現在のポップミュージックに繋がる
アメリカ音楽の歴史の貴重な生き証人であり、
この映画にはそういう価値があるのだが、
ジョーにとってはそんなこと、どうでもいいのだろう。
何も人間を深く描き、
ドラマチックで感動的な出来事を伝えるだけが
ドキュメンタリーではない。
「俺には生涯熱中できるものがある。
傍から見たら単なるバカに見えるかもしれないけど、
楽しい音楽を聴いてりゃ、そんなことどうでもいいんだ」
そんなジョーの声は聞こえてきそうだ。
人の役に立つわけでなく、社会に貢献するわけでもない。
感動的でもなければ、深い意味があるわけでもない。
しかし、彼の音楽に対する偏愛ぶりは痛快で、
どこか胸を打つものがある。
これもまた立派な男の生きザマである。
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