★JOKERはチェーンスモーカー
先日、「JOKER」について書いたが、
あの映画の舞台・ゴッサムシティは
明らかに1970年代のニューヨークをモデルにしている。
世界一繁栄を誇る、と同時に、
世界一荒廃したこの都市の
底辺生活者の代表でもある、
主人公アーサー、のちのJOKERは、
ひっきりなしにタバコを吸い続ける
チェーンスモーカーだ。
アメリカで猛烈な禁煙運動が起こるのは、
その後、80年代に入り、
レーガノミクスという経済政策
(アベノミクスのお手本)が始まってから。
1970年代までの喫煙習慣は、
世界中の近代国家で、
明らかに一つの屹立した文化を形作っていた。
昭和までの日本も、もちろんその例外ではない。
僕より上の年代の人たちの中には、
ごくまともでも、
アーサーみたいなチェーンスモーカーが
今でも大勢いるのではないかと思われる。
★2020世界の模範都市・東京のシガーバー
20世紀、近代国家が成長する過程で
創り上げられた、一つの喫煙文化は、
今、絶滅の危機に瀕している。
2020に向けて世界の模範都市になるために、
東京都はますます喫煙に厳しくなった。
弱小の飲食店にも圧力がかけられ、
2020年4月1日から従業員を雇っている店は原則禁煙となる。
都内の少なくとも約84%の店が禁煙になる見込みだと言う。
僕の友人がやっている神楽坂の店は、
1950~70年代の雰囲気を売りにしていて、
常連客の大半はスモーカー。
そしてご年輩の人も多い。
現在、昼間カフェ、夜はバーだが、
来年4月からは「シガーバー」として営業するようだ。
そうでなければ営業できなくなるのである。
完全分煙のために店を改装する費用が出せないのが理由だが、
もはや店内にはタバコの匂いが深く染み付いてしまっているので、
建て替えでもしなければ、煙草嫌いは寄ってこないだろうと言う。
「シガーバーも受動喫煙防止法の対象で禁煙になりますか?」
なんて笑い話みたいな質問がウェブ上に載ってたりして、
これはこれで混乱が起こりそうな気がする。
★愛煙家通信
“あるホテルのシガーバーで、おばさんに「タバコやめてくれませんか」と言われて大喧嘩になったことがある”
そう語るのは作家の北方謙三氏だ。
これは「愛煙家通信」というウェブサイトに載せられた
北方氏の投稿文の一部。、
この文章がめっぽう面白く、こんな一節もある。
“男というのはね、女が価値を認めないようなものを
大事にするものなんですよ。
煙になって消えて行くようなものの価値なんて、女にはわかりませんよ。
男なんて人生そのものが煙みたいなものだから、自分と重ね合わせて、
そういう消えて行くものの価値を大切にする。
ほとんどの女は絶対、煙になって消えようなんて思ってないですからね”
さすがハードボイルド作家。
人生における喫煙の意味、そして女には理解困難な、
喫煙に対する男の心情を見事に言い表した
含蓄のある言葉である。
こじつけ?
そう、タフガイらしい、そのこじつけ力が素晴らしい。
この「愛煙家通信」の投稿コーナーは、
「禁煙ファシズムにもの申す」と題され、
さまざまな著名人の意見やエッセイが載っている。
ちなみに杉浦日向子氏や上坂冬子氏など、
女性作家や学者なども寄稿している。
「たばこはわたしの6本目の指」なんて、
そそられるタイトルで書いているのは女優の淡路恵子氏。
こんな色っぽいことを囁かれたら、
夜のブラックホールに吸い込まれそうだ。
好き嫌い、良い悪いはともかく、
なぜ、20世紀の近代国家の成長段階で、
あれほど喫煙が持てはやされ、
一つの文化を7築いたのか、
歴史を知る意味でも
「愛煙家通信」は一読の価値があると思う。
★かつては愛煙家、じつは今も
僕はかれこれ20年近く前に25年間の喫煙習慣を捨てた人間だ。
心情的には喫煙者・禁煙者、双方の間を、
コウモリみたいに、どっちつかずで行ったり来たりしている。
だから性懲りもなく、毎年思いついたように
この「酒、タバコ、やめて100まで生きたバカ」という
シリーズを書き続けている。
それはやっぱり体はタバコを受け付けなくなったが、
心のどこかで、過去の自分を含め、
タバコを吸っていた人たちを愛していたいからだと思う。
早い話、ノスタルジーや思い出の世界。
変わりゆく世界への抵抗、なのかもしれない。
時々、あのまま吸い続けていたら、
今ごろどうなっていたか?と考える時もある。
もしかしたら今と変わらず元気でいるかもしれなし、
重大な健康障害に陥っていたかも知れない。
中年以降の人生は今とは違ったものになっていたかもしれない。
そんなこと、誰にもわからない。
自分にもわからない。
ただ、やめてしまったからこそ、
一つの世界、一つの文化として
却って興味をそそられる部分がある。
酒もタバコも人間の愚かしい習慣だと思う。
でも、その愚かしいストーリーがある世界から
たぶん一生離れられない。
コメントをお書きください