昼間の日差しはずいぶん暖かくなり、日も長くなった。
季節は早春と言ってもいいだろう。
この頃になると地球がアラームを鳴らすらしく、地下で眠っていた虫やカエルなどがのそのそと起き出してくる。
そういえば「啓蟄」という言葉もある。
今年はまだ見ていないが、うちの猫の額みたいな庭でもこの季節になると、ガマガエルがのっそりしているのに遭遇して、ちょっとびっくりしたりする。
カエルと言えば、僕のブログの中でやたらアクセスの多い(ランキングを見ると断トツトップ)のが、2016年6月30日に上げた「なぜ日本ではカエルはかわいいキャラなのか?」という記事だ。
なんでだろう?
そんなにカエルのファンが多いのか?
多いのかもしれないが、そんなの、イヌ・ネコ・ウサギなどに比べれば微々たるものだろう。
考えてみて推察できるのは、村上春樹の短編小説「かえるくん、東京を救う」について少し触れているからではないかと思い至った。
これは村上氏の作品の中でも非常に人気が高い。
短編なのでそんなに時間をかずに読めるし、寓意に富んだ、まるで現代のグリム、アンデルセンのような物語だ。
言い換えると、村上春樹という作家のエッセンスが、最もわかりやすい形で凝縮された作品だろう。
講談社が出してる小中学生向けの「はじめての文学」というシリーズにも村上氏の自薦で収められている。
物語の背景には1995年の阪神淡路大震災とオウム真理教による地下鉄サリン事件という、日本を襲った二つの大事件がある。
これらの悪夢的な事件はもう昔話だが、昔話ゆえに僕たちの脳裏に静かに負の感情を伴って沁み渡っている気がする。
それをこんなメルヘンのような作品にして後世に残した村上春樹はすごいなと思う。
天災と人災。いずれ東日本大震災と福島原発の事件も似たような形で、多大な影響力を持つ「昔話」として日本人の脳裏に沈殿するのではないか。
彼はインタビューで自分は長編小説の作家だと語っているが、同時に短編は大事な実験場だとも話し、短編の中でさまざまなアイデアを形にしてみたり、新しいトライアルをしているという。
「かえるくん」のエッセンスは後に書かれた代表的な長編作品の中でもずっと息づいているような気がする。
この作品を好きな人は結構、僕と同様の印象を持っているのではないだろうか。
近々また、地下から這い出してきたかえる君に会いたいと思っている。
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