お読みの女性の方、ダンナやカレ氏に「肉じゃが作ってちゃぶだい」と頼まれたことがありますか?
僕はおふくろもカミさんも肉じゃがが嫌いなので家で食べたことはほとんどありません。(おふくろの場合は子供の頃、作ったことがあるかもしれないけど思い出せない)
カミさんの場合は自信を持って「一度もない」と言い切れます。
聞いたら「ジャガイモが半分煮崩れて汁や他の具材と混ざっているのが嫌」なのだそうです。
なかなか神経が細やかな女性です。
いずれにしても、自分が嫌いなものだから作るはずがない。
と言って別に文句を言っているわけではありません。
僕もカレーのジャガイモやポテサラやフライドポテト、コロッケその他、ジャガイモ料理は大好きですが「おれは肉じゃがが食べた~い!と叫んだことはありません。
サトイモの煮っ転がしは好きだけど、あの甘い醤油の汁はじゃがいもには合わないと思っています。
思うに肉じゃがは日本が近代化して間もない貧しい時代、そして庶民も月に一度くらいは肉を食べられるようになった時代――明治とか大正に庶民の食卓で発展したおかずだろうと思われます。
一家のお母ちゃんがかまどの前に立ち、家族みんなで食べるには少なすぎる肉をどうやって食べようと思案した挙句、そうだ、あのすき焼きのような(当時は肉を使ったごちそうといえばすき焼きをおいて右に出る料理はなかった)味のものにしよう、安い野菜と合わせて煮るんだ。そうだジャガイモがいい。ジャガイモを主役にすればお腹もいっぱいになるし、それにあまりものの玉ねぎやニンジンを入れて煮込めば・・・はい、出来上がり!
という感じでお母ちゃんが工夫を凝らして生まれた料理が肉じゃがです。
これがデン!と鉢に盛られて食卓の真ん中に置かれる。
ほかほかと立つ湯気と匂いが食欲をそそる。
「いただきまーす1」と10人もいるような大家族が一斉に競いあって食べる。
「こらノブオ!肉ばっか選って食べるじゃない!」と、母ちゃんの優しく暖かい怒声が飛ぶ。
他におかずと言えば漬物くらいしかないけど肉は食えるし、ジャガイモでお腹はいっぱいになるし、今夜の家族は幸せだ。
そんな時代が長く続き、肉じゃがは不動の「おふくろの味」となったわけです。
というわけですが、男性の方はカミさんやカノジョに「肉じゃが作ってちゃぶだい」と頼んだことがありますか?
いまだに肉じゃがは「おふくろの味」の定冠詞を被っていますが、豊かになっちゃったこの時代、この料理をそんなに好きな人は大勢いるのだろうか?
街の中の定食屋に入っても「肉じゃが定食」なんてお目にかかったことないもんなぁ。
そもそももはやメインディッシュとなり得ない。食べるとしても副菜というか小鉢でつまむ程度。
けれども副菜だろうが小鉢だろうが、ばあちゃんもおふくろもカミさんも誰も作らなくなっても、古き貧しき日本の郷愁を感じさせる肉じゃがは不滅なのだと思います。
これから先は明治・大正・昭和のストーリーを背負ったファンタジー料理としてその命脈を保っていくでしょう。
・・・と思っていたけど、香取信吾がコマーシャルやってるファミマの「お母さん食堂」のメニューにはポテトサラダはあっても肉じゃがは入ってないぞ! 危うし肉じゃが。この続きはまた明日。
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