ばんめしできたよ プロット

著作者: VinothChandar ライセンス:クリエイティブ・コモンズ
著作者: VinothChandar ライセンス:クリエイティブ・コモンズ

写真著作者: VinothChandar ライセンス:クリエイティブ・コモンズ

 

おもな登場人物

★ヒロコ:料理人。28歳

★モリヤ:給仕人。52歳

★ウノ:ホスピス入居者。67歳

 

第1幕:ホスピス「虹の彼方」

 

ホスピス「虹の彼方」に新しい入居者・ウノさんが来た。

ヒロコとモリヤは部屋に行き、自己紹介するとともにホスピスのコンセプト――緩和ケアと食事サービスのあらましを紹介。人生を幸福に締め括るために「最後の晩餐」を提供していることを伝える。

ヒロコは何が食べたいか、ウノさんに話を聞きに行く。

「ただ食うために生きてきた」――ウノさんは語り始める。

何も欲せず、人を傷つけたりしないようにひっそりと生きてきて、やっと自由になったと思ったら、こんな病気になるなんてあんまりだと、彼は人生を呪い、死の恐怖におびえ、混乱する。

そんなウノさんにモリヤが飲み物を出す。飲み物を飲んだウノは、落ち着きを取り戻していく。彼は次第に現実を受け入れていく。そしてこのホスピスに入れてもらえたことは自分の人生の中で最高に幸福な出来事かも知れないと思い始め、記憶をよみがえらせていく。メニュー作りの準備はできた。

 

 

第2幕:メニューづくり

 

 厨房でヒロコが料理を仕込み、デザートを作っている。突然、手が引きつり、作業の手が止まる。ほどなくして回復し、作業に戻りつつ、彼女はウノさんが語ったことを回想していた。

ヒロコはあの手この手でウノの記憶を呼び覚まし、いろいろなシーンをイメージさせ、それに基づいてメニュー作りを行った。

 

 ウノさんは学生時代、好きだった女の子にプレゼントしようとお菓子を作ったことがある。でも、これじゃ男と女があべこべだと思って手渡せなかった。その子は結局、他の男とくっついてしまった。

 ウノさんは夢を抱いた。自分は結構うまく料理ができる。料理人になりたいと思った。けれども両親は大反対し、ちゃんと勉強して大学に入って会社に勤めろと言った。

 ウノさんは親の言われるままにしてしまった。大学は志望したところに入れず、親はがっかりした。就職もままならず、志望した会社には入れなかった。

 その後、社会人になっても彼の人生は鳴かず飛ばず。思い切って会社を辞めて、キッチン付きのキャラバンカーで日本独自の料理を作りながら世界中を旅して回る夢を抱いたこともあった。しかし、これも自分では無理だと結論して諦めてしまった。

 

 ウノさんに話を聞くうちにヒロコの記憶も入り混じっていく。

彼女も親に反対されたが、家を飛び出し、修行をして回って各地でプロの料理を学んだ。ある夜、彼女は真夜中の店の厨房で、同じスタッフだったかつての恋人と抱き合い、歌を歌い、想像の中でいっしょに料理の歴史の旅に出かけたことを思い出した。恋人は痩せた彼女の身体をなでながら「この骨で美味しいスープが取れそうだ」と言って笑った。おいしい料理は素敵な恋に、素敵なセックスに似ている・・・。

 

 そんな彼女の瞳をウノさんはじっと見つめ、入り込んでいた。彼女の恋の思い出もウノさんにとっては羨ましいものだった。

 自分の話に戻り、結局、ウノさんは真面目に会社勤めを続けて無事定年を迎えてすぐに病に倒れた。夢は何一つかなわず、ただロボットのように感情もなく働いて生き長らえてきた。そんな人生に何の価値があるのか・・・。

 

 回想が終り、ヒロコはウノさんの「最後の晩餐」のメニューを完成させた。そしてモリヤと話し合い、サーブする日時を決める。けれどもヒロコはこれを本当に彼の最後の晩餐ということにしてしまっていいのか、疑問に捕らわれる。そのことをモリヤは察し、よけいなことを考えずにあの人が幸せになれるようにこの料理を作ってください、と穏やかに命じる。

 

第3幕:最後の晩餐

 

 ウノの前に出される完璧な最後の晩餐。けれども彼は口を付けようとせず、料理の中に毒が入っていると言う。自分はそんなことをした覚えはないとヒロコは驚き、うろたえる。

 ウノはヒロコの語った話を聞いて、彼女のことが好きになってしまったと告白する。最後に自分を幸せな気持ちにしてくれた料理人への感謝を込めて毒でも頂きましょう、と言って食べようとする。その瞬間、ヒロコの中で雷光のようなものが閃き、ウノの動きを阻止して自分の作った料理を床にぶちまける。

 彼女は気が付いたのだ。モリヤがサーブの時に最後の仕上げとしてふりかける「魔法のスパイス」が、入居者の息の根を止める毒であることを。

 

 ヒロコの糾弾を受けて、モリヤは語り出す。「虹の彼方」は、最後の晩餐によって人を安楽死させるための施設だった。給仕人のモリヤは影の院長であり、ホスピスを管理統括していた。そして、これは老い、病んだ人々が無事幸せに人生を締めくくれるよう、国家と資本家が秘密裏に考案し、実践している合法的な医療行為だったのだ。

 モリヤはヒロコに告げる。「このことを人に言いたければ言ってもいい。でも誰も信じないだろうし、信じようとしないだろう。私たちは何も悪いことをしていないし、罪悪感を抱く必要もない」。

 

 ヒロコはモリヤの言うことに抗えないが、受け入れることもできない。帽子とエプロンを外し、辞任すると告げたのち、ウノを叱咤激励し、彼のために、かつて恋人のために歌った歌を歌う。それに元気づけられ、よろよろとベッドから起き上がるウノ。一歩二歩と歩き出した彼を支えながら、ヒロコは本当にやり残したことはないのか?と問う。こんな体で何ができるのか、と自嘲して笑うウノ。しかし、じっと彼女の瞳を覗き込むと、お腹の奥底から一つの抑えがたい思いがこみあげてきた。

 「おかゆと味噌汁でいい。自分で最後の晩餐を作って、あなたと食べる。それをやり遂げるまで僕は生きる」と言う。家に帰ろうとするウノにヒロコはついていく。彼の本当の最後の晩餐を手伝うために。

 

END