●世界最強の棋士
先日は将棋の藤井四段の連勝新記録達成に日本中が湧きかえりました。
天才少年のホットニュースに水を差すつもりはないけれど、彼を確実に負かせる、世界最強の棋士がいます。
人工知能です。
ちょうど藤井四段の新記録がかかった1日前にNスぺで「人工知能」の特集が放送されました。
そこでは「電王戦」と銘打たれた勝負(もちろん公式戦ではありません)で、佐藤名人が人工知能に完敗。
もはやチェスも囲碁も将棋も、人間の頭脳では人工知能に太刀打ちできなくなっているようです。
単に強いというのではなく、人工知能が繰り出す手はあまりに「創造的」で、相手の意表をついている。
人間の将棋の世界が銀河系の一部とすれば、人工知能のそれは全宇宙的。ほとんど神の領域だ
――というのは対戦した佐藤名人、そしてコメンテーターの羽生さんのコメント。
それだけでなく、プログラミングをした開発者も、自分の「子供」であるはずの人工知能のすさまじい学習能力、急激な成長ぶりに驚いている様子でした。
●知識・ノウハウ・創造に関する「巨人」
どうしてそんなことが起こり得るのか?
答えは簡単です。
人工知能は、100人、1000人のプロ棋士が束になって、一生かかっても体験し得ない、天文学的な数の対局をすべて体験し、記憶し、応用し、そこから新しい手を生み出すことができるからです。
つまり、これまで人間が積み上げてきた膨大なデータを活用するからこそできる所業で、けっしてゼロから生み出しているわけではありません。
その過程は僕たち人間が勉強したり、技能をスキルアップさせたりするのと同じです。
先達が伝えてきた資料を読み込んだり、技能を真似て学んだり、練習したり・・・をくり返す中で、どんどんレベルを上げて、さらに上れば自分オリジナルのやり方なり、技なりを編み出していく。
職業訓練だって、スポーツや芸術館関係だって、大雑把に言えば、そうやって身に着け、プロとして選手として成長していくわけですよね?
ただ、人工知能の場合は、そうしたデータを取り込むスピードとキャパシティが人間の脳の能力をはるかに超えている。
ある分野の発祥からこれまでの歴史を丸ごと、ごく短時間で自分のものにできる。
要するに知識・ノウハウ・創造に関する「巨人」なのです。
それに対して人間は小人以下。
自虐的に言えば、虫か細菌のレベルです。
到底かなうはずがありません。
●社会への活用はますますスピードアップ
番組内でもタクシー会社や人材派遣会社など、すでに社会で人工知能が活用されている事例が紹介されていましたが、現在の状況はほんの序の口の先っぽ。この流れは今後、一気に早まると思います。
認めたくない人は多いと思いますが、経済・産業の分野ではこの「巨人」が、人間の業務をコントロールする日はすぐにやって来るでしょう。
「ロボット大統領が生まれる日が来ます」
そういうSFの世界から抜け出してきたような研究者も登場しました。
映画やマンガじゃあるまいし・・・と言いたくなるところですが、自分の利権を主軸に国を動かそうとする各国の政治家を見ていると、彼の言う通り、有史以来の人間の政治の歴史をすべて読み込んだ、人間の事情や性分を、人間よりよく知ったロボットが政治を行ったほうがいいのでは、とも思えてきます。
皮肉だけど、人工知能・ロボットが統治することで、真の民主主義政治が実現するのかもしれない。
●人間が人間である意味は?
そうした経済・産業・政治など、社会のマクロなところに対して、人間一人一人の生活や精神活動などミクロなところには、どうなのか?
こちらも家事をやってくれたり、子供や家族のように心を癒してくれたり・・・といった領域で、人工知能・ロボットの活躍が期待されています。
心のひだまでケアしてくれるロボットって、意外と早く作られそうな気がするなぁ。
そうなっちゃうと、人間はどうすればいいのだろうか?
少なくとも、役に立つ・立たないとか、優秀・優秀でないとか、そうした、現代社会の中心にある基準は相当薄れてきてしまうのではないでしょうか。
●ぼちぼち準備が必要なようです
「心の準備はできていますか?」
番組はそんなナレーションで締めくくられていましたが、本当に少しずつでも心の準備をしていかないと、人工知能がコントロールし、ロボットが活躍する世の中になった時、人間としてのアイデンティティはたやすく崩壊してしまうと思います。
ところで、Nスぺのこのシリーズ、これまでいつも「綾波レイ」の声で響いてきていたのだけど、今回はなぜか林原めぐみさん本人の声として響いてきました。
なぜ? 不思議だ。
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