一流レストランの料理人だった男が、ホスピスのシェフになり、入居者ひとり一人のために食事を作るという物語。
ホスピスはご存知の通り、病気などで医師からいわば「死刑宣告」をされた人、生きるのを諦め、人生の最期を受け入れつつある人たちの「終の棲家」になる場所。棲み処と言ってもそこにいるのはほんの半月程度の間です。
この物語はその入居者、および付き添うパートナーや子供たち数組と、彼らの話を聞き、食事を提供するシェフとの交流やそれぞれの人生のドラマ、そして食事をめぐる心の葛藤を描いています。
もともとドイツのテレビのドキュメンタリー番組だったようで、著者はその番組の制作者の一人でもあるジャーナリスト。
あまりドラマ性を強調せず、感動を押し付けない素直な語り口と乾いた文体で淡々と文章を綴っています。
いちばん興味をひかれるのは、やはりシェフの男。
年齢は明確にされていませんが、大学を中退してあちこちの一流店で料理人の修業を積み、このホスピスに来て11年、というのだから、若くても30代半ば。父親以外、家族について語ることなく、まだ独身のようです。
多少脚色がされているのか「人生の旅人」といったニュアンスのキャラクターになっています。
このホスピスがあるのが閑静な郊外ではなく、世界に名だたる夜の歓楽街レイパーバーン(ハンブルグ)の程近くというところも、なんだかちょっとフィクションめいているのだけど、それもまた面白い。
人生にとって大事なものは何か?を考えさせられる一冊です。
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