雨女に会った

 

 梅雨入りして初めての雨。

 最近のゲリラ豪雨はたまりませんが、今日のような雨は割と好きです。

 なんか、ピチピチチャプチャプランランランと歌い出したくなるような。

 

 というわけで雨降りを見ていたら、ふわっと目の前に雨女が現れました。

 赤い傘をさして、なんとなくデビューしたころの壇蜜に似ています。

 彼女は僕にちょっと色っぽい、アンニュイな声で囁きかけます。

 「雨女のご用はありません?」

 

 彼女はご用聞きにやってきたのだ。

 

 イベントのある日は雨男・雨女、晴れ男・晴れ女というのがよく話題になります。

 

 たいていの場合は単なる印象で、しかも自分でそう言っているんだけど、最近は物心ついたときから――とまでは言わないまでも、たとえば幼稚園とか小学校の頃から、自分の能力と将来を見越して、ちゃんと自らデータを取っているような人も、ごくたまにいる。

 

 「わたしは正真正銘の晴れ女だ。見よ!」

 

 とか言ってスマホを見せれば、そこには過去の遠足やら運動会やら旅行やら冠婚葬祭時の晴天率がちゃんとデータ化されており、その時々の写真やら参加者のコメントまで載っている。

 

 彼ら・彼女らは生まれながらの才能とスキルアップによって、お天気を操作できるプロの晴れ男・晴れ女なのである。

 

 晴れ男・晴れ女の需要は高い。

 野外イベントをぜひ成功させたい時、いまや主催者の合言葉は決まっている。

 

 「晴れ男・晴れ女を予約したか?」

 

 「いえ、あいにく当日はスケジュールがあいてなくて・・・」

 「予算がなくて、ギャラが出せないんですが」

 「降水確率ゼロですよ。もったいない」

 「ばかもーん!」

 

 晴れ男・晴れ女を手配できなければ、担当者のクビはスパッと吹っ飛んでしまう。

 たんまりギャラをふっかけられても、惜しんでいる場合ではない。

 たとえ雨の確率0%でも念には念を入れて保険をかけておく必要があるのだ。

 

 でも、雨男・雨女の場合は?

 これはあまりお呼びがかからないかも知れない。

 

 でも、彼女と相合傘でデートしたいとか、

 雨で外に出られず一日家の中でデートすることになって、一線を超えるような状況に持っていきたいとか・・。

 

 晴れ男・晴れ女のビッグビジネスに比べて、こちらはなんとも地味で儲からなそうだが、それでも求められることはあるのだ。

 

 晴れているばかりでは困ることだってある。

 晴ればっかりでは生きててつまらないこともある。

 それに意外と雨というのは思い出をつくることが多い。

 

 僕が息子をベビーカーに乗せて初めて散歩に出た日、途中で雨に降られたら、カミさんが傘を持ってきてくれたことを憶えている。

 あれは息子にとって初めて体験した雨だったと思う。もちろん本人は憶えてないけど。

 ちょうど今日のような6月の雨降りだった。

 

 そんな話を雨女にしたら、

 「ぜひまたご用命を」とにっこりと、ちょっと少し寂しげに笑って消えました。

 

 ゲリラ豪雨のような雨は嫌だけど、今日のような梅雨のしとしと雨は、ちょっと愛とお色気と人生のスパイスがあるなと感じます。