エンディング時代の遺産相続を考える

 

●遺産ものドラマ

 

 かつての少年少女小説に「遺産もの」というジャンルがありました。

 不幸な生い立ち(多くの場合、孤児とか、親戚などに引き取られていじめられて暮らしている)にもめげず、清く明るい心を持ち、勇気ある善行で、汚れた心のおとなたちをギャフン!と言わせたり、涙を流させ、悔い改めたりします。

 そして、そうした清さや勇気や正義の数々が評価され、どこかのお金持ちから莫大な遺産を贈られて、めでたくエンディング・・・というパターンの一種のサクセスストーリーです。

 このお金持ちは地上に降臨した神様のような人で、正体を隠しているけれども、少年少女の善行を、いつでもどこでもちゃんと見ているのです。

 1つや2つは読んだこと、あるいは映画かテレビドラマで見たことあるでしょ?

 

 「遺産もの」というジャンルがある、というのは、ぼくのでっち上げですが、そういった話が19世紀の英米文学から、日本なら昭和初期から、ぼくが子供だった1960年代くらいまでよくありました。

 

 けど、そういうお話を読んだり見たりしていた少年少女が大人になり、お年を召して死期が近づくと・・・というのが今回のテーマ。またもやマクラが長くなってすみません。

 

●エンディング産業展2016

 

 ただいま、レギュラーワークの月刊仏事(鎌倉新書)の仕事で、22日(月)から24日(水)までやっている「エンディング産業展」の取材をしています。

 

 最近は団塊の世代を中心に、終活、エンディングという言葉がポピュラーになってきました。いわば「どう自分の人生を締めくくればいいのか?」を、多くの人が真剣に考えるようになってきたのです。

 

 というわけで、ちょっと前まではそれぞれ勝手に商売をやっていた葬儀屋さん、お墓屋さん(墓石屋さん)、仏壇屋さんなどが「エンディング産業」――人の死にまつわるビジネスの名のもとに一堂に会する大規模な展示会が、去年から東京ビッグサイトで開かれるようになったのです。

 

 超高齢化社会でこれから人がどしどし死ぬ。

 だからエンディング産業もこれから数十年、膨らみ続けます。

 とは言っても、ただ時代の流れに持っていれば儲かるわけではありません。

 「葬式なんかいらない」という人も増えていて、そのまま火葬場へGO!というパターンも最近は珍しくありません。

 そうした状況を踏まえて、それぞれ工夫を凝らしたり、先述の3つのおもなカテゴリーの他にもニッチなビジネスがいろいろ生まれたりしています。

 

 そのあたりのことはまたおいおい書きますが、急速にニーズが高まっているものに、行政書士やら税理士やら不動産鑑定士といった士業関係の仕事があります。

 要は遺産相続の件をどう処理すればいいのか――愛する人、大事な人が死んでも、おちおち悲しんでなどいられないのが現実なのです。

 

●士業⇔葬儀屋さんのセミナー

 

 そんなわけで、初日だった昨日(22日)はその士業の人たちのセミナーの取材をしました。受講者は主に葬儀屋さん。ただ葬儀を請け負うだけじゃなく、そうした遺産相続の窓口にもなり得る葬儀屋さんになろう!というわけです。

 たしかに葬儀屋さんと士業の人たちがチームを組むというのはいいかもしれません。

 その先の内容は、まだこれから記事を書くところなので、ここでは明かしませんが、このセミナーの最後に出てきた、実際に行政書士の人が遭遇したトラブルの話には愕然。

 

●遺産をめぐるトラブル

 

 奥さんが亡くなったのだけど、なんと夫が知らなかった○百万円(後半です)の借金が。それも夫名義で借りられていた!という負債の話とか、

 凶暴な息子――詳しくはわからないけど、家庭内暴力を振るう子供が、そのまま大人になったらしい――に「遺産は残さない」と遺書を書いて父が亡くなったけど、その息子が怖くて遺書を鑑定に出さなかった(鑑定で認められなければ遺書は無効になる)話とか・・・。

 

 ちなみに友達の介護士さんにこの話をして、「お金持ちのお客さんが、『家族ではなく、あのやさしくて清らかな介護士さんに私の遺産を贈る』と遺書に書いたらどう?」と持ち掛けてみました。

 「アハハ、そんな~」と彼女は笑っていましたが、あり得ない話ではありません。

 

●もしも遺産が転がり込んだら?

 

 あなたが介護士ならどうでしょう?

 あなたが清く明るい心と勇気ある善行で、汚れた心の人々を悔い改めさせられる介護士さんなら・・・。

 かなりビミョーです。お金が入るのは喜ばしい。「あの人の気持ちなのだからいただかなければ」と殊勝な思いに駆られるかもしれない。生活費やら医療費やら教育費に困っている人ならなおさら。

 

 しかし、もらったが最後、あなたはそのお金持ちの遺族から買わなくても済んだ恨みを買ってしまう可能性もあります。

 「その介護士というのはどこのどいつだ?」と、誰もあったことのに甥だか姪だかが突如現れてつきまとってくるかも知れません。そのせいで人生を狂わせてしまうリスクもハンパありません。

 こういう話、小説やドラマならおいしいネタですが・・・。

 

●というわけでエンディング

 

 いずれにしても、トラブルの裏で蠢くその家族の人生ドラマに頭が行ってしまい、その後の取材がなかなか進みませんでした。

 家族との付き合い、お金との付き合いには生前から十分気を付けたほうがよさそうです。さもないと、最後にどんでん返しが待っている?

 

 いやぁ、最近、オバケや妖怪の話をよく書いてたけど、そんなものより生きている人間の方がよっぽど怖いなぁ。

 

 

 

 

2016・8・23 TUE